みなみが割り箸を置くと、絢樹は彼女の首筋に唇を滑らせた。 「……ん、ちょ……っ、待って」 「これ以上は、どう頑張っても無理ですよ? みなみさん」 判っているくせに。と、彼は小さく呟いて、背後から彼女の胸をゆったりと 揉み始める。 「みなみさん……柔らかい」 雨の日は、性的欲求が高まる彼。 一晩中みなみの身体を貪る日。 その夜も他の夜と変わらず、飽きることなくみなみを抱いた。 「……もっ……、絢樹、駄目」 「俺を我慢させるからですよ……」 小さく囁くように言う彼の声は、熱を含んでいるものの優しいそれで、みな みはこういう時の彼もとても好きだと思えた。 絢樹の身体の熱さも、芯の熱さも、彼女の身体を溶かすには十分で与えてい るのか与えられているのかが判らなくなっていく。 寧ろ、溺れているのは自分のほうではないかと思えた。 雨の日だけだと思うから、余計に刹那的なものを求めてしまうのか。 ――――感覚的なものだけであるのなら、こんなに求めたくはならない。 彼の温度を独り占めしているという征服欲が満たされるからこそ、手放せな いと思ってしまう。 そしてそれはどんなに強く抱きしめても、すり抜けていってしまっているよ うな感覚も持ち合わせていたから、いつまでも満たされることはなかった。 「絢樹っ……」 彼の身体を強く抱きしめると、絢樹が小さく笑った。 「みなみさん……可愛い」 こめかみにキスが落とされ、その唇の柔らかさに彼女は震えた。 「……もう少し、ゆっくり……して?」 「はい」 抽送を緩やかなものに彼は変える。 何度も何度もキスを繰り返し、互いの体温を唇でも確かめ合った。 こうしていれば、恋人同士のそれと大差ないようにも思えた。 “言葉”も、みなみが命令すれば絢樹はその言葉を口にする。 (雨の日に、欲しているのは私のほうだ) 永遠にはならない時間を、手探りで夢中になって掴もうとしている。 僅かに掴めたスプーン一杯にも満たない時間という名の砂を、流れ落ち続け ている砂時計の中に必死になって入れているのも自分のほうだと彼女は思って いた。 硝子で出来た時計の中身がなくなってしまったら、それでおしまい? 腕の中には確かな温もりが存在しているのに、消えてなくなりそうな不確か な関係にみなみは震えた。 「みなみさん」 「……もう、限界よ。眠いもの……」 行為が終わっても絢樹の身体をその腕から離さないみなみに、彼は小さく笑 った。 瞳を閉じ静かな寝息をたてはじめる彼女の額に、絢樹は唇を寄せる。 外から聞こえる雨音が今は耳に優しく、まるで幼子を眠らせる調べのようだ った。
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