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織川の部屋に入る。 電気をつけ、明るくなった室内は散らかってはいなくて、キャラクターグッ ズらしきものも見当たらない。 むしろ10畳以上はあるかと思われる彼の広い部屋の中は、無駄なものが無 くすっきりと片付いている印象だった。 “織川の部屋”というよりは、キングサイズのベッドが置いてあるぐらいで そこはまるで寝室のようだった。 「あ、あれ? 散らかってないよね」 優月が彼を見上げると、織川はふふっと笑った。 「なんでおまえって、そう無防備なの?」 「え? 無防備って? ぅひゃっ」 ふわりと身体が浮いて、彼女が運ばれた先はベッドの上。 優月の上に覆い被さるようにして織川がいた。 「せ、瀬那?」 「襲ってもいい?」 「え、ええっ!」 「優月に触りまくりたいんだけど」 「だっ、駄目だよ」 「えー……」 「えーじゃないってば!」 「俺のことも触っていいから」 「……え、あ……」 思わず黙ってしまう優月に彼が笑う。 「あ、触りたいんだ?」 「そ、そんなことはないよ!」 慌てて否定する彼女を、織川が笑った。 「嘘だ。いいよ、触って?」 「でも……」 「“今日は”優月には触れない。それなら安心して触れる?」 彼の言葉に、優月はちらりと織川を見上げた。 「約束……してくれる?」 「いいよ」 優月の身体の上に乗っていた織川が、彼女の横に移動して寝転がった。 彼の腕が優月の頭の下に入り込み腕枕の格好になった。 「……なんか、ちょっと変……」 腕枕をされた彼女が言う言葉に織川は薄く笑う。 「そうかな」 それでも、優月は手を伸ばし、彼の頬をそっと撫でた。 「……」 織川は静かに瞳を閉じる。 彼女の手は、彼の耳にも触れた。 「切れた場所って、右? 左?」 「左の……ここ」 そう言って織川は優月の指を耳の付け根に触れさせた。 「切れたって言っても、引っ掻きすぎてちょっと切れたってだけ。すぐに治る」 「……そっか、でも……痛そう」 「耳、触られると気持ちがいい」 「え? あ、そうなの?」 「ああ。ちょっと、ゾクってなる」 彼の声色が少しだけ艶めいたものになり、優月はどきりとさせられた。 震えそうになる指先を、織川の髪に梳き入れる。 長い前髪をかき上げるとこめかみや頬骨が露わになり、どきどきとするよう な部位でもないのにそれらの場所が露見することで優月の胸がいっそう高まっ た。 (どうしよう……) 露わになったこめかみにキスがしたいと思ってしまう。 目を閉じ、伏せられた睫毛の長さが色っぽく感じて、柔らかそうな瞼にもキ スがしたい。 湧き上がる感情に震える思いがした。 「好きにしてくれて構わないよ」 優月が思っていることが判るのか、織川は目を閉じたままそんなふうに言う。 「俺は優月のものなんだし」 「……私の、もの?」 「そうだよ、違うのか?」 瞳を開けないまま言われた彼の言葉に、優月はどう返事をしていいのか迷っ た。 「ねぇ、優月」 「う、うん?」 「今晩、泊まっていってよ」 「えぇっ」 「……駄目?」 「と、泊まりは、その……」 「このまま、眠ってしまいたい」 「え? あ……眠い、の?」 「優月の体温、気持ちいい」 「……」 優月はそっと織川の頭を撫でた。 「抱きしめて」 彼の促すような言葉に、優月は織川の身体に腕を回し、包むようにして抱き しめた。 「眠っても、いいよ」 「……優月……ずっと、傍にいて」 「う、ん」 織川の腕が彼女を抱きしめ、そのまま眠りにつく。 広がる静寂と無防備な彼の寝顔に、優月は穏やかになっていく気持ちを感じ ていた。 ――――彼女が見ていないときに、織川が小さく笑ったことには気付かない ままに。
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