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身体を撫でられる感触で優月は目が覚める。 ゆっくりと瞳を開けると、織川が微笑んだ。 どうやら彼を寝かしつけたつもりが、自分のほうが深い眠りについてしまっ ていたようだった。 「あ、ごめん……」 「何が?」 「私のほうが寝ちゃって」 「いいよ。優月の寝顔が見られたし、俺得って感じ」 「俺得……?」 「俺が得したってこと」 「ふぅん? 瀬那……寝られた?」 「寝たよ」 ふふっと彼は笑う。 「ええっと……、今何時かな」 「1時過ぎぐらいだ」 優月がポケットから携帯電話を取り出すのと同じぐらいに織川が言った。 「1時かぁ……」 母親から今夜の泊まりを承諾した旨のメールが届いていることを確認しなが ら、間延びした声で彼女が言うのを織川は笑った。 「ちゃんと家にメールしてたんだ?」 「うん、心配させるといけないし」 「そう」 「あ、そうだ瀬那……」 優月は言いかけてやめる。 「なに?」 「う、ううん、何でもない」 メールアドレスを聞こうと思ったがやめてポケットに携帯電話をしまった。 知りたいのに、聞けない。 傷が疼くように痛かった。 何がきっかけになって嫌われてしまうのかが判らないから、何をするにも不 安が付きまとっているような気がした。 「ところで」 「うん?」 「日付が変わったんだけど」 「ああ、そうだね、瀬那は今日シフト入っているの?」 彼女の返事に織川は笑った。 「今日は入っていないよ」 「そっか、私も」 「知ってる」 くくっと彼は笑う。 「そうなの?」 「ああ、優月の勤怠表を見たから」 「そうなんだ、知っていたから、泊まっていけばって話になったの?」 「そういうわけでもないんだけどな」 彼の指が伸びてきて、優月の頬を撫でた。 「で、日付が変わったので、今度は俺の自由にしてもいいのかな?」 「え?」 優月が驚いて顔を上げると、織川は微笑んだ。 「触らないと約束したのは、“昨日”の話だし?」 彼の言葉に、優月は息をのんだ。 確かに、織川は“今日は触れない”と言っていたが。 「そっ……そんなの、なんかずるい」 「ずるいかな? 言葉通りなだけだと思うんだけどね」 織川は身体をゆっくりと起こし、彼女の額に唇を寄せた。 「せ、瀬那……」 「優月が欲しい」 間近にある彼の綺麗な瞳に見つめられると、吸い込まれそうになる。 いっそ全部、吸い込んでくれればいいのにと思ってしまうほど、透明な光を 放っていて、今はその中に甘い輝きも混ざっているような気がした。 「おまえを俺のものにしたい」 「……で、も」 「嫌?」 「せ、選択権があるんだったら、今日は……いや」 「ふぅん、そう」 「ごめん」 「いいけど?」 「……怒った?」 「怒りはしないよ」 寝転んだまま頬杖をついて織川は笑った。 「優月の気持ちが決まらないなら、仕方ないと思うし」 「ごめん……こういうの、面倒……だよね」 「面倒? ああ……別にそういうふうには思わないけど、ただ」 「た、ただ?」 おびえながらそっと織川を見上げると彼は笑った。 「風呂ぐらいは、一緒に入ってくれてもいいんじゃないかなとは思うよ」 「……え、えぇぇっ、お風呂!?」 あっさりと告げてくる彼の言葉に、終わったと思われた駆け引きが、まだ続 いていることを知らされた。
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