「そう、風呂。さっぱりしたいだろ?」 悪びれる様子もなく、織川はそう言って笑う。 「い、嫌……って言ったら駄目なのかな」 おそるおそる優月が聞くと彼は首を傾げた。 「なんで嫌なの?」 「裸になるとか、無理だからっ」 「え? 優月って服着て風呂に入る人なのか」 「……違うって、判ってるくせに」 彼女の言葉に、織川はにやりと笑う。 「最大限に譲歩するとして、タオルを巻くことは許してあげてもいいよ」 「瀬那もちゃんと巻くんでしょうね?」 「なんで? 優月は俺を見たくないの?」 「お、俺っていう部位がどこかは敢えて聞かないけど、隠すところは隠してっ て言っているの」 「隠さないとイケない場所なんてないけどなぁ」 笑いながら彼はそう言い、ベッドから降りた。 「おいで」 差し出してくる織川の手を避けることはやはり出来ず、優月は手を取ってし まう。 タオルを巻くから大丈夫。 不安な気持ちにそんな思いを覆い被せて、優月はバスルームへと連行されて いった。 パウダールームに足を踏み入れるとその広さに驚く。 白い洗面台の下には木目調の収納スペースがあり、洗面台の両脇にはリネン 庫もある。 大きな三面鏡も鏡の裏側には収納スペースがあるように見えた。 豪奢な外観のタワーマンションに相応しいパウダールームではあると思えた が、立派な造りに優月は圧倒されてしまう。 「バスタオルはこれね」 リネン庫から白いタオルを出して彼は言う。 「あ、うん……ありがとう」 「脱がしてあげようか?」 「え?」 優月が返事をする前に、織川は彼女のジャケットのボタンを外す。 「じ、自分で脱げるよ」 「そう?」 手を止めて、彼は自分が着ているカットソーを脱いだ。 「ひゃあっ」 大胆に脱ぎ始める織川に、優月は慌てて背を向けた。 「今見なくても、結局は後で見ることになるのに」 肩に手を置かれ、後頭部にキスの感触。 「先に入ってるね」 扉が開く音がして、パウダールームから彼の気配が消えた。 ほっとすると同時に、自分も裸にならなくてはいけないのかと思うと緊張で 指が震えた。 風呂に入るだけだと自分に言い聞かせて優月も裸になり、バスタオルをその 白磁のような肌にそっと巻いた。 扉を開けて中に入ると、浴槽の広さと洗い場の広さに優月はまた驚かされた。 「うわ、お風呂大きいんだね」 「自慢の風呂なので」 湯船に浸かっている彼はそう言って微笑む。 「ふたりで入っても全然窮屈じゃないだろ?」 「う、うん……そんな感じではあるけど」 「おいで」 にこりと彼は笑い優月を招いた。 彼女は赤くなりながらバスタオルを巻いたままでも日頃の習慣で、かけ湯を してから織川が待つ湯船に身体を沈めた。 「……やっぱりタオルがあっても恥ずかしいよ」 「そう? どっちにしても恥ずかしいなら、タオルを取ってしまえば?」 「な、なんてことを言うの!!」 柔らかな声の主は爽やかに大変なことを言ってくれる、と優月は益々顔を赤 らめた。 「優月、可愛いなぁ」 くくっと織川は笑い、背後から優月を腕に抱いた。 「ひっ……ゃ」 「そんなに身体を硬くしなくても。ヒドいことはしないよ」 「“ヒドいことは”って、なんかひっかかるんだけどっ」 「ふぅん、そう?」 「な、何もしないんだよね?」 「何もってなに」 「だ、だから……」 「風呂に入ったのに、何もしないとか」 織川は彼女の耳元でひっそりと笑う。 耳に彼の吐息がかかり、優月の身体がぞくりと反応をした。 「ひ、ゃっ」 「優月って、耳、弱いの?」 「し、知らないっ」 「へぇ? じゃあ、試してみる?」 織川の柔らかな唇が優月の耳に触れ、舌先が耳たぶをゆるやかになぞってい く。 柔らかな感触が与えてくる感覚に優月は震えた。
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