「や、だっ」 快楽の虜になってしまいそうになるのを、振り払うように優月は身体を捩った。 「嫌なの?」 「駄目ってば」 「俺が優月に触れたいって思っていても?」 「だ、だって……」 「……優月は、やっぱり良い匂いがする」 そう言って織川は彼女の首筋に唇を押し当てた。 「凄く、誘われる香りがする」 織川は首筋にも、耳と同様に唇を這わせる。 「やっ、やだって」 「ここも駄目なの?」 優月の抵抗に、くくっと彼は笑った。 「どこも駄目だってば」 「どこもヤダって言うなら、俺は好きな場所を触らせてもらうよ」 ふいに胸を揉まれて優月の身体が跳ねあがった。 「せっ、瀬那っ」 「柔らかいね」 「駄目って、言ってるの」 「なんで? そんなに俺に触られるのが嫌?」 優月は首を振ってから言う。 「嫌じゃない、だけど……」 「今日はしないという約束は守るよ?」 「……本当に、しない?」 「ああ、挿入はしない」 「……じゃあ、なんで触るの?」 「セックスが目的じゃないと、好きな子の身体に触っちゃ駄目なのか?」 「わ、かんないけど」 触る。の意味合いが違うような気がして優月は戸惑っていた。 織川に触られたくないわけではない。 セックスをするのも心の底から嫌だと思っているわけではなかった。 織川となら、と思う気持ちと、不安に感じる気持ちを天秤にかけるとやはり 踏ん切りがつかないと優月は思っていた。 溝口相手でも、結局はセックスをするところまで至らないまま別れてしまっ た。 セックスをする事自体への不安があり、求められても応じることが出来なか った。 ――――今も優月の中でその不安は払拭されてはいない。 「瀬那は、本当に私が好きなの?」 「好きだよ」 「それは私でなければ駄目なの?」 「どういう意味?」 「私よりも、可愛い子も性格が良い子もたくさんいるのに私でなければ駄目な 理由はあるの?」 「ああ、やっぱり理由を知りたいんだ」 くくっと織川は笑って彼女を抱きしめた。 「まず……そうだな、俺は優月よりも可愛い子がいるとは思ってない」 「そんなことないでしょ?」 「優月の目には他の人間は可愛く見えるのかもしれないけど、俺にとっては優 月は俺の好みを実体化させたような人間だからおまえ以上に可愛くて萌える人 間はいないよ」 「……も、萌え……なのね」 「おまえは俺が最近そう思い始めたんだと感じているんだろうけど、俺は研修 一日目に優月と出逢ったときからおまえを可愛いと思っていたよ」 「え?」 「だから、おまえのことを簡単に好きだとか言っている訳じゃない」 「……」 「俺が動くことにはちゃんと理由があるんだよ、生半可な気持ちでは動いては いない。本気で俺はおまえが欲しいと思ったからそうしただけで」 柔らかな声は優月の耳には優しかったが、心は切なく痛みが増した。 「性格に関しては良い悪いは一定の基準にしかならなくて、あとは相性だった りするから、どんなに良い性格の人間でも俺と合わなければ意味がない」 「合うと、思っているの?」 「ああ」 彼は笑った。 「例え合わなくても、合わせるように矯正は可能だと思ってる」 「……矯正、とか……」 「だから不安に思わなくていい、おまえは今のままで俺を好きになってさえく れれば問題なんて何もないんだよ」 「嫌いじゃないよ」 「俺は好かれたいんだよ? 優月」 「……う、うん」 「……前の男が忘れられなくても、しばらくの間は我慢できるし」 織川の言葉に優月は彼を見上げた。 「忘れてないわけじゃないの、今でも好きとか、そんなふうには思ってない」 「そう? それは嬉しいことではあるな」 彼はにこりと微笑む。 鮮やかな笑顔。 切れ長だけれど冷淡な感じがしない柔らかな光を放つ双眸は優月だけを映し ていた。 「ただ……」 「ヒドいことをされたから、男性不信にでもなっている?」 織川の言葉に優月は頷いた。 「男性不信……は、そうだと思う」 「そうか……なんだか、悔しいな」 「え? 何が?」 「そいつがこの身体に散々色んなことをしたのかと思うと」 「え……えぇっ?」 そっちのヒドいじゃないから! と優月は顔を赤らめ思わず叫んでしまいそ うになった。
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