快楽の波がひいていった後は穏やかな感覚が残るのかと思えばそうでもなか った。 織川はゆっくりと優月の身体から指を引き抜く。 満たされた筈の身体であるのに、まだ奥で何かが燻っているような気が彼女 はしていた。 十分すぎる筈なのに一体何が足りないと思ってしまうのだろうか?? 荒い息を整えようとすると、優月の横に織川が寝転んだ。 「気持ち良かった?」 「う、うん」 「そう、良かった」 にこりと邪気のなさそうな笑顔を彼は見せた。 判らないと言えば、この行為はまだ続けられてしまっていたのだろうかと優 月は思う。 そうされることを望んでいるのかそうでないのか判断が出来ない。 じわりと身体に疲労が浮かんで、彼女は小さく息を吐いた。 「寒くないか?」 「うん、大丈夫……」 長い前髪をかき上げて織川が笑う。 顔が全部見えると彼の造作の良さがはっきりと判り、優月は思わず視線を外 してしまう。 透明に輝く綺麗な瞳で見つめられると、今の自分の状態が堪らなく恥ずかし いと彼女は思えた。 裸でいるという状態も、激しく乱された後であるということも。 「優月、好きだよ」 織川は小さく笑ってから、優月の額に短く口づけ彼女を包み込むように抱き しめた。 「……瀬那」 「今、おまえが俺の腕の中にいることが凄く幸せ」 どんな意図をもって彼は幸せだと言うのだろうか。 言葉通りに受け取っても良いのであれば、この肌に触れてくる彼の体温と同 じように温かな気持ちになれると優月も思えた。 言葉では何も返すことができなかったが、彼女も織川の身体を抱きしめ、よ り強く彼の体温を求める。 「……優月の身体、柔らかくて気持ちがいい」 小さく呟くように織川は言い、優月を抱きしめる腕を強めた。 「ずっとこうしていたくなる」 「……う、ん」 余計なことを何も考えなければ、純粋な心の根元では彼女も同じように思え ていた。 だけど、ずっとという言葉の終着地点はどこなのだろうかと考えてしまうか ら優月は苦しくなってしまう。 「迷うの?」 そんな彼女の心を見透かすように織川が言う。 「考える余裕を与えるから優月が思い悩んでしまうのであれば、俺は……」 「……瀬那?」 「違う方法も考慮に入れなければいけないのかもね」 くくっと彼は笑った。 優月が少しだけ顔を上げて織川の様子を窺おうとしても身体が密着している せいでその表情を見ることがかなわず、彼女は諦めて視線を彼の肌に戻した。 (私は、考えすぎているだけなのかな) だけど心の中にある湖は、その一見静かに見える湖面をゆらゆらと揺らし続 けている。 波立つような感覚がいつまで経っても消えてはくれない。 そんなふうに優月は感じていて、その波立つ感覚が何であるのかが掴みきれ ずより彼女を不安にさせた。 その夜、織川は約束通りそれ以上のことはしなかった。 抱き合い、体温だけを貪欲に求め、朝が来ても暫くは優月を離さなかった。
>>>>>>cm:
rit.〜りたるだんど〜零司視点の物語 |
執着する愛のひとつのカタチ |
ドSな上司×わんこOL |