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残り少なくなった日付のカレンダーを眺め、今年の終わりを感じながら彼女 は短く息を吐く。 駅まで送ってくれた彼の姿を何度も思い出した。 まだ離れたくないと言ってしまうのは浅ましいことなのだろうかと考え、結 局言えなかった感情。 繋いでいた手を解かれた瞬間の息苦しさがまだ心には残っていた。 手の温もりを追いかけたいのに出来なくて、消えていく彼の体温を惜しむよ うに優月は自分の手を強く握りしめ、じゃあねと彼女が言うとそれを承諾する ように織川は優月の頬に短いキスを落とした。 柔らかな唇の感触。 それも、もっと欲しいと思う気持ちが心の奥で芽生えていた。 もっと欲しい。 額や、頬だけではなく、唇に彼の体温を知りたいと願う気持ちも結局は言え なかった。 織川と繋がり合うことを拒絶したのは優月のほうであったから。☆★☆★
会社に出勤をすると、織川の姿がなかった。 座席表を確認してホワイトボードを見ると、欠勤者の欄に彼の名前があった。 優月は少しだけ肩を落として座席に向かう。 織川が休むということは今までなかった。 風邪でもひいたのだろうかと心配してみても、彼と連絡をとる手立てがない ことに気付かされ、苦い感情に胸を痛めた。 その翌日も織川は出勤せず、優月の心に不安の影を落とした。 メールアドレスや携帯番号を聞かなくても、最悪は会社で会えるからという 気持ちがどこかにあった。 そしてその次の日も彼が出勤してくることはなく、欠勤者の欄にも織川の名 前がないので優月は思いきって管理者であるプロジェクトリーダーに織川の様 子を聞きに行くことにした。 「ああ、織川君ね。ご家庭の事情で昨日付で退職扱いになってるわ……もとも と契約の更新なしで年内いっぱいってことだったから少し早まってしまったわ ね」 「え? 退職……って」 辞めることが決まっていたという事実にも、優月は目の前が暗くなる感じが した。 『家は親が買ったもので、その親は今は転勤で海外に行ってる、だから一人暮 らしなんだよ』 柔らかな声の主が言った言葉が思い出され、家庭の事情というフレーズにも 絶望が浮かぶ。 もう、織川には会えない? 優月の身体が震えた。 12月24日。 世間では恋人たちが最も賑わう日の出来事だった。 織川は、もう会わなくてもいいと思ったのだろうか。 そうなってしまっても構わないと? だから契約が年内で終わることも言わず、メールアドレスの交換もしなかっ たのだろうか。 あの夜が最初で最後だと、彼にはそんな覚悟でもあったのだろうか? そんなそぶりは微塵も見せないままに。 ――――最後。 その言葉が優月の胸を突き刺した。 だけど。 始まっていたわけではないのだから、何を思う必要があるのだろうか? 傷つきたくないから織川との距離を縮めなかったのだから、こんな終わりに 心を揺らす必要なんてない。 そう考えようとしても感情のコントロールが出来なかった。 会えないと、思ってしまえばよりいっそうの感情が彼女の中で揺れた。
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