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LOVEですかッ ACT.3

  

☆★☆★

 翌日優月が出勤すると、織川は既に出勤をしていてデスクに向かっていた。  今日の彼はいつも着ているようなチェック柄のシャツではなく、Vネックの 黒いカットソーを着ている。  首から下げているシルバーのネックレスも今日はやたらと目立ってはいるも のの、そういえばいつも身につけていたなと優月は思いながら、割り当てられ たデスクに座り、プラスチックで出来た自分のネームプレートを所定の場所に 置いた。 「おはよう」  優月がシステムにログインをしているときに織川は彼女の横にきて声をかけ てくる。 「あ、お、おはよ……」 「今日、休憩時間同じだろ? お昼一緒に食べよ」 「う……う、ん」 「昼は弁当持ってきた?」 「ううん、持ってきてないけど」 「じゃ、俺、作ってきたからそれを食べよう?」 「へ?」  思わず変な声が出てしまって、それを織川が笑った。 「え? お、織川君がお弁当作ってきたの? 自分で?」 「瀬那だっての」 「……」 「優月の為に作ってきたから、楽しみにしてて」 「……う、うーん」  織川はにこりと笑うと、自分のデスクへと戻っていった。  面倒くさいと言って、パンしか食べない人がお弁当作ってきた??  優月は一抹の不安を感じずにはいられなかった。  昼の休憩時間。  優月の予想は大きく裏切られることとなった。  リフレッシュルームの端の席を陣取り、渡された二段重ねのお弁当。  下段は普通のご飯だったが、上段には手作りと思われるおかずがぎっちりと 詰まっていた。 「こ、これって織川君が作ったの?」 「瀬那だってば」 「……ぅ、あの」 「うん、俺が作った。ね? 食べてみて」  織川はにっこりと笑う。 「……うん……いただきます」  箸をのばして綺麗に焼かれた卵焼きを口に入れる。 「あ、だし巻き卵なんだ。美味しい」 「よかった、優月の口に合って」  彼はそう言うと、自分用のお弁当の蓋を開け同じように食べ始めた。 「手間がかかったんじゃないの?」 「そりゃあ、手間がかかるのが嫌で、普段は作ってこないんだから」  織川は、ふっと小さく笑った。  溜息のように漏らされた笑みの艶っぽさに、優月はどきりとさせられる。  近くで見れば見るほど彼の美しさに気付かされてしまい、優月は吸い込まれ るように見てしまう。  前髪で、やや隠されている切れ上がった瞳は黒目が大きく、縁取る睫毛の長 さがよりその瞳の美しさを強調しているようにも見えた。 「なに?」  長い前髪が揺れ、織川は優月を見た。 「う、ううん……なにも……」  形の良い唇から発せられる声にまで彼女は胸がどきどきさせられた。  だけど。  気にしないようにしていても心の中にある傷が疼く。  新しい恋なんてまだ出来ない、と優月は胸を押さえた。  溝口と別れたのはつい最近のこと。 それも“記憶に新しい”なんてレベルではないぐらい直近の出来事だ。 それなのに、織川を想うなんてことができるほど自分は器用ではないと優月 は思えた。  そもそも、織川が気まぐれに懐いてくるのだって彼が飽きればそれで終了だ。 惑わされても仕方がない。 ――――好かれて嬉しいと思う気持ちは砕かれた。 好かれたことが嬉しくて、想いを返すつもりでいたのに驚くほどあっさりと 切り捨てられた。  そのことをネチネチと思うつもりはないけれど、だけど忘れられるほどまだ 時間は経っていなかった。 「……このウインナー美味しいね」 「そう?」 「うん、なんだか高級そうな感じもするし」 「高級そうってなんだよ」  くくっと織川は笑った。 「でも、普通のウインナーじゃないでしょ」 「普通、が判らないけど」 「パルキーとか……」 「ああ、パルキーではないな」 「なんかちょっと香辛料入ってるよね、美味しい」 「そうか」 「鶏肉もトマト煮で美味しい、すっごい手間かかってるよね、これ」 「まぁね」 「織川君ってお料理上手なんだね」 「瀬那だっての」 「……う」 「普段は面倒だから作らないけど、料理を作ること自体は嫌いじゃないから、 上手って言われると……嬉しいかな」  にこりと笑った織川の笑顔が見とれるほど美しくて優月は赤くなって慌てて 俯くことしか出来なかった。

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