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LOVEですかッ ACT.22

「……どんなふうにしてくれても構わないよ」
「へぇ?」
 優月の言葉に、彼は微笑んだ。
「だけど、今日が最後とか、思い出作りみたいなのだったら嫌だ」
「……クリスマスイブだから、思い出作りではあるけど?」
「最後っていうのは嫌」
「聞くけどさ」
「う、うん」
「おまえは何でそんなに俺に執着するの? 別に今日が最後になっても構わな
いだろ、もともと深い関係というわけでもないんだから」
「それは……」
「手が離れるって思ったから惜しいと感じるだけだろ?」
「違うよ」
「違わない、惜しいと思うのは一瞬だけで、おまえが言う“ずっと”には信憑
性が全くない」
「瀬那、私は本当に傍に居て欲しいって思っているの」
「どうだか」
 織川の言葉に、優月は一度唇を噛んでから小さく言葉を吐き出す。
「……だったら瀬那だってそうじゃない」
「俺が何?」
「瀬那の言う“ずっと”だって一瞬だけのことじゃない、瀬那だって結局私か
ら離れていくんだし、あなただって本気じゃないからあっさりとどこかに行っ
てしまうんでしょ?」
 ワイングラスを傾けて、中の液体をゆらゆらと揺らしながら織川は首を傾け
た。
「よく聞こえなかったな。俺がなんて?」
「瀬那は本当は私を好きじゃない、会社を辞めるまでのほんの少しの間だけか
らかって遊んでみたかっただけ、そうなんでしょう?」
「ふーん。まぁ、おまえがそう思うんだったらそうなのかもな」
 ワイングラスに入れた白ワインを優月には渡さずに、織川はそのまま自分で
飲み干した。
 そして空になったワイングラスを眺めながら言う。
「からかって遊ぶだけなら、おまえなんて面白くもおかしくもないし、ままご
とみたいな恋愛ごっこに付き合わされるぐらいなら、ゲームをやってるほうが
余程楽しいんだけどね」
「……恋愛、ごっこ?」
「ああでも、お互いに好きだと思ってないんだから恋愛の真似事にもなってな
いか」
 そう言って織川は小さく笑う。
  相変わらず声の調子は柔らかく優しいものなのに、言葉のひとつひとつが棘
を含んでいるようで彼が言葉を発する度に優月は胸の痛みを覚えていた。
 返す言葉が見つからず、後ずさりをすると織川に腕を掴まれる。
「逃がさないよ、優月」
「……っ」
 溢れる涙の量が増え、嗚咽が漏れる。
  声を出さないようにしても息をするだけで泣き声が漏れた。
「そんなふうに泣くぐらいなら、なんで言われたくないことを言わせるように
わざわざ仕向けてくるんだよ」
「……だ、って」
「それとも、俺が“違う、そうじゃない”と言うのを期待でもしたか?」
「そ、そんなこと、思ってな……」
「ほら、また。違うって言って欲しいんじゃないなら、なんでおまえは遊びだ
とか言うの? 俺が本気じゃないとか言うの? それを俺が肯定したら泣くの
はなんでだよ、自分で言っておいて」
「……」
 俯く彼女の顎に手をかけ、織川は自分のほうに向かせた。
「好きだって言われたいんだろ? 俺に優しくされたいんだろ? 愛されたい
って思っているんだろ? だったらいつまでもぬるいことばかり言ってるなよ、
切り札持ってるのはおまえなのに、ジョーカー握ったままゲームオーバーにす
る気なのかよ」
「……ぅ、っく……瀬、那」
「俺に傷つけられたくないんだったら余計なことはもう一言も言うな。俺が望
んでいることでおまえが出来ることなんて、ひとつしかないだろうが、優月」
 キッチンの傍の壁に優月の身体が強く押しつけられる。
  織川の切れ上がった双眸が彼女のすぐ近くにあった。
  乱暴にしていても、その瞳は誘うようにどこまでも甘い光で輝いている。
  優月の胸が締め付けられるように痛いと感じるのは、行動の荒さへの恐怖心
からではなく、違うものだった。
「……なんでも出来るなら、俺を愛せよ」
 織川の言葉に優月が頷くと、再び彼女の顎が持ち上げられた。
「ちゃんと言葉で約束して」
「わ、たし……瀬那を、愛……っん」
 優月の顔の前に影が落ち、織川の唇が彼女の唇に短く重なり合う。
  一瞬離れるけれどまたすぐに唇が重なった。
  今度はすぐには離れずに、執拗に彼は優月の唇を求め何度もその感触を確か
めるようにして擦り合わせた。
 彼の唇の熱に浮かされ、優月の意識は溶かされていく。
  彼女の唇を舌でこじ開け織川はそのまま中までそれをねじ込ませた。
 濡れた舌同士を絡め合わせると甘い感覚に支配されていくようで、そうした
行為を止められなくなっていく。
 求めても求めても満たされず足りないと思う気持ちに拍車がかかり、ワイン
の味のキスは優月をどこまでも酔わせていった。
「瀬那……」
「好きだよ、優月。俺がおまえから離れるなんて……出来るわけがないだろ」
 手を伸ばすと欲しいもの全てがそこにあるような気がして、互いにその身体
を強く抱きしめ合った。



  

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