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● 熱情の薔薇を抱いて --- ACT.26 ●

  

******

いつでも、彼女の事を想っている。
目を閉じれば真っ先に姿が浮かんでくる位に。


俺が”そう”なのだから、彼女にもそうであって欲しいと考えてし
まうのは、独占欲なのか??

何処までも欲深くて笑ってしまう程だ。

彼女と暮らし始めて、恋人としての時間が長くなる程に、俺は貪欲
になっている気がした。


出先での仕事が終わり、そのまま家路へと向う。
駅構内で、シュークリームを販売している店舗があり、そこでシュ
ークリームを購入する。

多分沙英は喜んでくれるだろうから、その表情を少し想像して心の
中で笑った。


自宅の鍵を開けてドアを開くと、沙英が2階から降りてきた。

「ただいま」
「おかえり…なさい」

帰宅して、愛する女性が出迎えてくれるという事は良いものだな。
などと思っていると沙英が俺に抱きついてきた。
「沙英?」
あまりこういう出迎えをしない彼女なので、喜びより疑問の方が大
きく感じた。
何かあったのかな?と瞬時に思いついた。
「どうかしたか」
抱きいれた腕の中から、沙英は俺を見上げて来る。
上目遣いに濡れた瞳が愛らしくて堪らない。
「和瑳が好きです」
「…うん、俺も沙英を愛しているよ」
「どうしたら、和瑳はずっと私だけを好きでいてくれますか?」
「え?」
「それとも、自分だけを見ていて欲しいと思う気持ち自体が傲慢な
のでしょうか」
沙英は俺をじっと見詰めながらそんな事を言う。
「いや、そんな事はないよ」
彼女の頬を撫で、身を屈めて柔らかな唇の上に自分の唇を重ねた。
「俺は沙英だけのものなのだから」
「…それは、ずっとですか」
「ずっとだよ」
そう言っても沙英は微笑まない。
嘘だとでも思っているのだろうか。

まぁ、それはともかくとして。

「何かあったの?」
訊ねると、彼女の瞳の水分が増した様に見えた。
「和瑳が好きなんです」
「…うん…」
「ずっと、ずっと私だけの和瑳で居て欲しいんです」
茶色がかった大きめの瞳から涙が零れ落ちる。

そんな様子を、あぁ可愛いなぁと思って見てしまう。

「なんでそんな風に思ったの、原因があるんだろ?」
俺の問いに彼女は下を向いた。

拒否か?

でもそんな姿も可愛かった。

「何も無いと言うのならまだしも、無言だっていうのは、何かあり
ましたって言ってるのと同じだよ?それを知らせておきながら、俺
には黙っておくつもりなの、そういうのが許されるとでも思ってる
の?」
笑いながらも語尾を強めると、沙英は顔を上げた。
「和瑳、私…」
「嫌わないから、でもちゃんと言いなさい」
沙英は、ほっとした様に小さい息を吐いた。
両思いになってからは、沙英はパニックになる事はなかったけど、
だけどそのきっかけは何時でも転がっている様な気はしていた。

「…持田さんが…」
予想していなかった名前が出てきて少し驚く。
「持田?」
沙英は俺をじっと見上げた。
「持田がどうした」


言いながら、ふと、数日前の出来事を思い出していた。
同期の辻に今回の同期会には参加出来ないという事と、これから暫
くは(多分ずっと)同期会や飲み会には参加できない旨を伝えた。

それからすぐだ。
持田がわざわざその事を確認しに来たのは。



******

「辻君から聞いたんだけど、同期会に暫く参加出来ないって本当な
の」
「あぁ、本当だけど」
「仕事がそんなに忙しいの?それとも私生活?」
持田は笑う。
「私生活かな」
「…そうなの?彼女出来たとか」
「うん、そう」
俺の返答に持田は読み取りにくい表情をした。
笑っている様にも見えたし、違う様にも見えた。
「でも、前に彼女出来た時だって同期会には参加していたじゃない?
今度の彼女はそんなに束縛激しい人なの」
「まぁ、束縛されたいのは俺の方だから。激しい部類には入らない
かな」
「…そうなの…寂しくなるね」

寂しくなると言われると、どうとも言えない気持ちにさせられた。

同期会は少なくとも、俺が寂しいと思う時間を埋めてくれた物でも
あったからだ。

だからと言って、沙英と天秤にかけられるものではない。
計る前にどちらが大事かなんて判りきっているからだ。






その持田が一体?




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