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● 熱情の薔薇を抱いて --- ACT.27 ●

  
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「彼女に何か言われたの?」
俺が問うと、沙英はちょっとだけ頷いた。
「トイレに行った時に偶然会ったんですけど、その」
「何?」
「…和瑳を束縛しすぎるのはどうかと思うって…」
「そう…でもその束縛に関しては俺が望んでいる事だからと、持田
には言ってあるんだけどね」
俺がそう言うと、彼女はちらっと見上げてきた。
「私が知らないところで、持田さんとお話したり…しているんです
ね」
「え?あぁ…言われるとそういう事になってしまうね」
「そうですか」
沙英は一旦俯いてから顔を上げて笑った。

「ご飯にしましょうか、お腹空いてますよね」
「…沙英?」
俺は心の中で舌打ちをした。
自身の失敗に。
がらりと表情を変えてしまった彼女にそれを知らされた。

持田に関しては、全部沙英に話すか、隠すのか両極でなければなら
なかったのだと。

大した会話ではないと俺は思ってしまっていたから油断した。
会話したその日に沙英に言わなかったのに、後になってから話した
事を言うのはマイナスにしかならない。

―――――そして。

俺は持田に対して何の感情も抱いていなかったから、逆の事は想像
もしていなかった。

沙英は多分、気付いていたんだ。
そんな事にも今更ながらに気が付いてしまった。
いや、知らない振りをしていただけかも知れない。

「沙英、あのね」
知らず、かしこまった言い方になってしまい彼女は怯えた色をはっ
きりと瞳に映し出した。
「き、聞きたくないです」
「え?」
「ごめんなさい、今のままで十分です、それ以上なんて望まないで
す、だから何も言わないで下さい」
「沙英、それはどういう…」
「ごめんなさい」

彼女はすっと俺から身体を退いて、凄い勢いで階段を駆け上がって
行ってしまった。



…多分、沙英はまた極端な発想をしているのだろうなという様に思
えた。




階段を上がると彼女はキッチンにいた。
「おかず、温めますね。今日はお魚の煮付けみたいですよ」
沙英は何事もなかった様に笑いながら俺にそう言った。
「ご飯も良いけど、先にシュークリーム食べようか。買って来たか
ら」
シュークリームが入った箱を沙英に差し出す。
「…ご飯の前にですか?」
「順番なんてどうでも。好きな物から食べれば良い、沙英はシュー
クリームは好きじゃない?」
「好きですけど…」
「じゃ、食べよう、こっちにおいで」
ダイニングのソファーに腰掛け、隣に沙英を座らせた。
「あ、でも何か飲み物を」
「要らない、食べよう」
ひとつ取り出して沙英に渡す。
「買って帰ったら、沙英が喜ぶだろうなって思えたから買ってきた
んだよ」
「…ありがとうございます、あの、嬉しいです」
「うん」
俺が食べるのを見てから、沙英も食べ始めた。
「ここのシュークリームって、注文してから生地にクリームを入れ
てくれる所ですよね」
「あぁ、そうだよ」
「…いつも食べたいなぁって思っていたんですけど、ひとつだけっ
て頼みにくくて買えなかったんです」
そう言って彼女はちょっと笑った。
「和瑳が居たら、2個頼めるから、いつでもここのシュークリーム
が食べられますね」
「そう」
笑っていたのに、沙英は突然泣き始めた。
大きな瞳から涙が溢れて零れていく。
「沙英?」
「ごめんなさい…ごめんなさい」
「うん、謝らなくていいから」
「蓋が、出来ないんです」
「蓋?」
「蓋を閉めてしまえば、笑っていられるのに」
「沙英」
彼女を引き寄せて抱き締める。
「笑わなくて良い、思っている事を全部俺に言えば良いんだよ」
「何もないです」
「じゃあ、なんの蓋なのさ」

沙英の耳元に唇を寄せる。
そして何度も何度も愛していると囁いた。

愛してる。

この気持ちを向けられるのは沙英だけ。
沙英以外は誰も愛せない。

奪っても奪っても足りないと思う感情。
その熱。

沙英以外が見えなくなる盲目さ。

俺に”唯一”を知らしめたのは沙英だけだ。

その俺がどうして沙英以外を求められる?


「他の女は…触れたいとも思わない」


沙英を抱いた時の強い感覚も深い快感も知っているのに、他は抱け
ない。


「…俺には、沙英一人だけ、いればいいんだよ」
沙英は泣きながら言った。
「持田さんと、付き合ってないのですか」
「そんなわけ、ないでしょう?二股なんてかけないよ」
「…でも持田さんは…」
「うん、君は自分に向けられた感情には鈍感なのにね」
俺は笑った。

持田は俺が好きなのだ。
その事に沙英は気付いていた。

「持田が言ったの?俺を好きだって」
「いえ…でも、言われなくても…」
「そう、その勘の良さ、俺に対しても発揮してもらいたいものだね」

彼女の瞳から零れ落ちる涙を拭った。

「他には、何か言われたか?」
俺の言葉に沙英は首を振った。
「いえ、それだけです」
「それだけで、不安になったんだ」
沙英は頷いてから、すみませんと言った。
「でも…持田さんは和瑳に触れる人だから」
「触れるって?」
「話している時、持田さんはよく和瑳に触っていました」
「…あぁ、言われるとスキンシップの多い人だな」
「好きな人には、ちょっとでも触れたいと思うものです」
俺は笑って沙英の頭を撫でた。
「沙英は、俺に触れたいと思っているの?」
「思っています、和瑳に気持ちを伝える前から触れたいって思って
いました」
「そう」

沙英を抱き締めた。

愛しい彼女。

沙英が俺を愛しいと想ってくれる度、俺はもっと彼女を愛しいと想う。

気持ちはふたり同じにはならない。

何故なら、常に彼女が俺を想う以上に俺が彼女を深く思ってしまう
からだ。

俺はずっと、沙英を好きでいるのだろうなと、今まで以上に思わされ
た。






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