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● 熱情の薔薇を抱いて --- ACT.3 ●

  
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ふたりだけのお祝いが終わってからお風呂に入った。

出てから瀬能さんにおやすみを言いに行くと、「今日は一緒に寝よ
う」と彼が言った。



「瀬能さんと一緒に寝るの初めてですね」
ベッドに潜り込むと彼が腕枕をしてくれる。
彼が近くに居て、体温感じられて、そういうのが妙に心地良かった。

「ケーキの苺美味しかったです、それから初詣の前に食べた、
ももいちごの大福も美味しかったですし」
「そう」
ちょっと素っ気無い感じで瀬能さんが答えた。
その様子に違和感を覚えて、私は少しだけ笑う。
「もう大丈夫ですよ」
「何が?」
「工藤君の事です」
「ふぅん」
「過ぎた事ですからね」
「そう」
「多分、もっとうんと後になったら良い思い出とか言える様になる
と思います」
「…良い思い出?」
「高校の3年間、彼を想って幸せだったのは本当の事なので」
「幸せねぇ」
「はい、幸せだったり嬉しかった記憶はあるので、だから」
辛いと泣く事はもう無いんだという事を言いたかったのだけど…。
「沙英」
瀬能さんが身体を起して私に覆いかぶさる様な感じになってきた。
「は、はい?」
「その話は、もういいよ」
「…あ、はい」
「君の一途さを見せ付けられて、俺はあまり気分良いものじゃない」
「え?」
「君の一途さを量るのに他の男が出てくる必要はないよ」
「一途さって、あの…」
私の言葉を封じ込める様にして、彼の唇が私の唇に重なった。
短めのキス。
「俺だけ見てて」
私の言葉を待たずに唇を塞がれる。

伝えたかった事が変な風に伝わったのか、
それは伝わっているけれど、彼は別の事も気になったのか判らなか
ったけれども、私は目を閉じて彼の唇を受け止める。

ゆっくりと、自分の唇で私の唇をなぞる様にしてきた。

彼の背中に腕を回してそっと撫でる。
布越しでも判る身体の、その筋肉の固さやしなやかさ。
唇は凄く柔らかいのに肩や他の部分は自分のものと違って筋肉質か
らくる固さが感じられた。

唇を離して、くすっと彼が笑う。

「そんなに撫で回すとくすぐったいよ」
「…あ、す、すみません」
「まぁ、良いんだけどね、好きな様にしてくれて」
目を合わせると、優しく瀬能さんは微笑んだ。
彼の頬に手を置くと、私の手にキスをしてくる。
「瀬能さんに触れたいってずっと思ってました」
「そうなの?」
「瀬能さんが私に触れる様に、私も触れたいって感じていました」
「だったら、俺は沙英だけのものなんだから沙英が思う様にしてく
れて構わないよ」
彼の言葉は優しく私の心の糸に触れていく。
多分、最上級に私が欲しいと思う言葉なのだろう。
心に伝わった糸の震えが全体に甘く切なく広がっていく。
瀬能さんが私だけの彼であるという、その言葉は何て甘美なのだろ
うか。
独り占め出来ると言う大きな満足感。
「ねぇ、もっと触れて」
誘う様に彼が言う。
言い方は優しいのに、何処か甘えた様に感じる声が震わされた鼓膜
を通して脳内を酔わせる。
触れたい、もっと触れたい。
今まで感じた事のない衝動が湧き起こる。
彼の頬から首筋に掌を滑らせて鎖骨に触れる。
滑らかな人の肌。
温かい皮膚。

唇には、彼の唇が重なり何度も擦り合わせた後、それは深いものに
変わっていく。

キスされる感じも堪らなく好きだと思えた。
柔らかい唇も、濡れた舌の感覚も。

ただ、何かが助長されていく様で舌が絡め取られる度に追い詰めら
れる気分になる。

もっと、もっと、と心の要求が強くなる。
”もっと”何?

「…沙英…好きだよ…」
キスの合間に囁かれる言葉。
彼の甘く濡れた様な声音。
そのトーン。
それもまた私を追い詰めていく。

鎖骨の下に手が触れると、触れてる部分に合わせる様にして彼が寝
間着のボタンを外していく。
彼の胸板が露になる。
露になった胸に手を滑らせた。
自分とは異なる形状を持った身体。
少しだけ盛り上がった胸には一層の逞しさを感じる。
彼の身体が引き締まっていると形容するのは多分間違いじゃない。

男の人の裸なんてそうそう見た事なかったけど、彼の身体のライン
はとても綺麗だと思えた。
それらも私のものなのかと思ったら、気が触れるかと思うほどの高
まりを感じた。

見詰めてくる甘い輝きを持った黒瑪瑙の様な瞳は、今私だけを映し
ている。

全部自分だけのものにしたいという強すぎる欲求に眩暈がした。
この強い感情は一体何なの?
私はそれを持て余した。

「沙英、ねだって…望む事を口にして」
煽るように彼が言う。
多分彼は判っている。
だっていつだってこの人はそうなんだ。
私が私自身の気持ちに気付いていない時でさえ、彼は判っているく
せにその事を言わなかった。
知ってるくせに知らない振りをする。
今だって多分そうなんだ。
持て余しているものの正体を、私が判らなくても彼は判っている。
それなのに言わせたがる。

―――――望まれているという実感が欲しい。

いつだったか彼はそう言った事があった。
口に出さないから判らない、言わないから判らないと彼は度々言う。

表現してみろと突きつけられているのだと気付いた。
想いは形にして見せる事が出来ないから、その分言葉で表現しろと
言われているのだと思えた。

オウム返ししただけの言葉は要らないと言うのも、
私の心をその想いの形を見たがっている彼の強い気持ちなのだと思
えて、胸が痛くなった。

「…瀬能さんが、欲しい…です、もっともっと欲しいです」
私が言うと彼は少しだけ苦しそうな顔をして見せた。
「俺は…後悔させたりはしない、好きにならなければ良かったなん
て事は…絶対言わせない」
「…は、い」
「沙英…好きだよ」
彼の手が私の寝間着のボタンを外していく。
すぐに私の身体が彼の視線に晒される事になった。
キャミソールを胸の上までたくし上げられる。
彼の唇が胸の先端に触れた。

ひくりと自分の意思とは関係なく身体が跳ねる。
彼は片手で私の胸を揉みながら、もう片方の胸には唇や舌を這わせ
てくる。
追い詰められる感じはどんどん強くなっていった。

気持ち良いという不思議な感覚と、それを与えて来ているのが瀬能
さんの舌や唇なのかと思うと、恥ずかしさだとか色んなものが混ざ
り合っていく。

無理だ、こんな風にされて自分を保ってなんていられない。
全身の神経が自分のものでは無くなってしまったかの様に予測でき
ない感覚が生まれては消えていく。
予測できない感覚が顕著に現れていたのが下腹部だった。
刺激されているわけでもないのにそうされているみたいな錯覚が起
きている。
ひくついて、じんわりと濡れて来ているのが判った。

恥ずかしいと強く思っているのに、同じ様に強く”そこにも触れら
れたい”と思う気持ちが湧いてくる。

何故そんな風に思う感情が湧いて来るのが理解できない。
だけど、身体で感じるものと頭で考えるものがバラバラになってい
る様な気がした。

このまま、どうなってしまうの。

「不安そうな顔するな、大丈夫だから」
ふっと瀬能さんが笑う。
いつもの綺麗な笑顔だから、それだけで安心してしまう。
ただ、どう”大丈夫”なのかは理解出来なかったけれど。
「気持ち良いとか少しでも思っているならそれに溺れれば良いよ」
「…は、はい」
彼の頬にそっと触れると、優しく甘く輝いている瞳を細めて瀬能さ
んは笑った。
強い感覚は神経を鋭く刺激し、掴み所の無い感じに心がざわつき揺
らめく。

彼の唇が身体の何処かに触れる度に、意識を揺るがされる程の感覚
が湧き起こる。
皮膚が刺激に敏感になり過ぎていて、次々与えられるものに身体が
震えた。

「沙英の肌は、触り心地が良いね、滑らかで」
「…そ、そう…です、か?」
「うん、そう」
そんな風に喋りながら、彼は私の寝間着の下を脱がせる。
抵抗とかする気は全くなかったのだけれども、あっさりそうされて
心許無い感じが強くなった。
何かを訴えかけるよりも前に、彼の指が下着の上から私の下腹部に
触れてくる。
「…っぅ」
他のどの部分に触れられるよりも、過剰と思える位敏感にそこに触
れられた感覚に震えた。
「ん、いくらか…って言うか、だいぶ感じてくれているみたいだね」
そんな事を言いながら彼は小さく笑った。
「もっと判りやすく感じてくれても良いんだよ?」
薄い布越しに彼の指が蠢く。
「む、りです。判りやすくとか」
「そう?」
ゆるやかに行き来する彼の指の刺激が伝わって来ていて、身体が小
さく跳ねる。
「濡れてるの、判る?」
小さく囁く様に耳元で彼が言う。
判らないと言うのは嘘になる。
だけど、肯定するのは恥ずかしかった。
「判らないわけ、ないよね」
見透かす様に言って、瀬能さんは笑った。
「いじわる…するの、止めて下さい」
震える声で言う私を彼はちらりと見た。
「いじわるなんて、何もしていないよ?」
そう言う段階でもうそれは意地悪と言うのではないのか。
だけど言い返す事は叶わなかった。

彼の指が下着の中にまで滑り込んで来ていたから。

「っ…」
「なんで我慢するの?声が出そうなの堪えているよね」
指の動きでその部分がぬるっとしているのが判る。
「濡れてるの、判る?」
そんな事を言いながら、何度も指を滑らせる。
「や、やだ…」
「何が嫌?」
耳元で、小さく笑ってから私の耳たぶを甘噛みする。
それさえも刺激になってしまう。
意識をそちらにもっていかれていると、私の中にゆるゆると彼の指
が入ってきた。

「っ、や、だ」
「嫌とか言わないの」
彼の指が、ゆっくりゆっくり出し入れされる。
馴染みのない感覚が私を翻弄していく。
主に痛み、でもその中にある小さな甘い刺激に腰が痺れてくる。
瀬能さんが身体を起こし、私の足から下着を抜き取った。
「も、もぅ駄目です」
「この中途半端さで止めさせる気?ギブアップ早すぎだよね」
彼は笑いながら寝間着を脱ぎ捨てる。

ベッドの傍に置いてある小さな灯に照らされて、彼の綺麗な肉体が
見える。

これからされる事を判らないと言う程私は子供ではなかったけれど、
未知である事には変わりが無い。

瀬能さんの上半身の美しさには溜息が漏れそうになるが、
下半身を見るのはどうにも怖い感じがした。

見た事がないから、余計にそう思うのかもしれなかったけれども。






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