●●　熱情の薔薇を抱いて --- ＡＣＴ．３１　●●

  

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心以上に身体が変わっていくのがはっきりと判った。

欲してやまないもの。

そんな熱がある事を私は今まで知らなかった。

一日我慢するのも辛いぐらい。

こんな渦のような熱情にみんなはどうやって耐えているの。
耐えられないと毎日私は根をあげているのに。

こんなに自分が堪え性のない人間だったなんて知らなかった。

そしてこうして欲求が強い事が普通なのかどうかもはかれない。
だけどそんな事を悩む前に、今日も欲望があたまをもたげて来る。

今日は我慢してみよう。

そんなふうに毎日思っている。
だけど、和瑳の隣で寝ている以上欲求に打ち勝つ事は無理だ。

彼の体温を少し感じるだけで、私は狂ったように発情してしまうのだか
ら。

そんな私を彼がどう思っているのかはもちろん気にはなっている。

でも、もしその事を和瑳が蔑んでいようとも私はこの事に関しては下が
れない。

そこまで自分をコントロール出来なくなっていた。

どんなふうに彼に言われても、思われても、抱いてくださいと膝をつい
て懇願するだろう。

心以上に私の身体は彼のとりこだった。

なんて狂った熱なんだろう。


だから、何でもない振りをするのが大変だった。
会社で、和瑳の声が遠く、小さく聞こえるだけでも、私の身体が反応を
示す。
身体の部分に熱が欲しいと堪らない気持ちになってしまう。

身体に熱が埋め込まれればどんな風になるか判っているから想像し、苦
しくなってしまう。

あの熱が欲しい。

痛みにも似たものが身体をしびれさせた。


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「あ、瀬能さん　おかえりなさい」

生田さんとランチに出る途中で、帰社した和瑳と鉢合わせた。
「ただいま、これから昼？」
「そうです、瀬能さんはお昼は食べてきたんですか」
「いや、まだなんだ」

彼はそう言うと微笑んだ。
こう言った光景も、少し前までだったらなんの感情も持たずに見ていら
れた筈だったのだけれども、今は胸の中が少しもやもやした。

欲張りな感情。

一人占めしたいという強い思いが、心の中に靄（もや）をつくるのだろ
う。

心の強い欲求。

消せない感情。

身体の方が顕著ではあったけど、心も大きく変化していた。

―――――私、こんなに欲張りじゃなかった筈なのに。


もっと、もっと、私だけを…。

そんな欲求が息苦しかった。

（甘やかされると、駄目な人間なんだ…私って）

顔を上げると和瑳と目が合った。
彼はにっこりと私に向かって微笑む。

笑い返そうとしたのに、口元がひきつって笑えない。

駄目だ。
こんなんじゃ。

「生田さん」
「はい？」
「沙英を借りてもいいかな」

彼の言葉に驚いて私は顔を上げる。

「あ、どーぞどーぞ。じゃあ、今日のランチは別行動ね高槻ちゃん」
「え？あ…」

生田さんは、何事もなかったようにしてエレベーターホールに行ってし
まう。

「…ごめんなさい、和瑳」
「ごめんって、何が？」
和瑳は腕を組み、それから笑った。

「駄目だなって、判ってるんです。だから、次からは気をつけるように
します」
「なんの事？」
「会社で、不機嫌を表に出さないように…するって事です」
「不機嫌なの？それは今、このときって事？」
「え？あ…、それで、引き止められたんじゃなかったんですか？」
「うん、まぁ違うんだけど。でも、なんで沙英は不機嫌なの？」

余計な事を言ってしまったな、と思うには遅すぎて。
口に出してしまった以上は、全部言わなければ和瑳は済まさないだろう。

「…和瑳が、生田さんに微笑みかける…から」
「微笑み、ねぇ」

彼は、くすっと笑った。
「そういうのにも、君は妬いちゃうんだ？」
「ごめんなさい」
「ん、いいんだけどね。ところで―――――」
「はい？」
和瑳は少しだけ首を傾ける。
「まぁ、帰ってから聞けば良いんだろうけど、最近変わった事はないか？」
「え？変わった、って何がですか？」
「うん、沙英の周りで」
「私ですか？判らないですけど」
「そう、それなら良いんだ」
「どういう事ですか？」
「ううん」
彼は追及するなと言わんばかりに、にっこりと微笑んだ。
「…和瑳は、お昼どうするんですか」
「食べに行くよ、沙英と一緒にね」
「あ、はい」
「なにが良いかな」
和瑳はそう言いながら、今自分が来た道を戻り、エレベーターホールへ
と向った。

彼が言った事が気がかりではあったけれども、昼を一緒に過ごせる事は
嬉しかった。
だけど、嬉しいという心とはまた別に……。


（お腹…て、いうか…子宮の辺りが痛い。ううん子宮よりもっと下かな）

「どうかしたか？お腹押さえて」
「な、なんでもないです。お腹すいたなぁって…思っただけで」
「そんなに腹ペコなの」
和瑳は、ふふっと笑った。

駄目だ。
和瑳が傍にいるって思うだけで、身体がおかしくなる。