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● 熱情の薔薇を抱いて --- ACT.34 ●

  

欲しいのは、身体だけじゃなくて、心だけじゃなくて、彼の全部だ。

そういった感情を押さえ込む事がとても苦しい。

愛したり、愛されたりがよく判らないから、何処までが許されるかが判
らない。

境界線はある筈だ。

彼が引く境界線の、私は今、どの辺りに居るの?


「もう、とろとろだね、ここ」
和瑳はそう言って笑った。

身体の準備はとっくに出来ている。
彼が何かをしなくても、うざったいぐらいにそこは潤っていた。

「わ、たし…は、何かした方がいいですか?」
「何かって、何をしてくれる気でいるの」
ふっと彼は笑った。

―――――今までは。
”そういう事”に対して、深い興味を抱いた事はなかったけれど、でも、
だからと言って行為を何も知らないという程子供でもない。

私が黙っていると、和瑳は私の後頭部に手を添えて言った。

「じゃあ、して」

少しの覚悟は必要だった。
だけど、最初ほどの恐れはない。

見る事も、触る事も。

そして。


ただ、彼は”こうする事”で悦んでくれるのだろうか?という不安はあ
った。

相当な大きさを保ったそれを、口に含んでゆっくりと舐めた。

「無理してない?」

和瑳は笑いを含んだ声で言う。
それに答える様にして、私は首を振った。

無理はしていない。
ちょっとだけ勇気が要ったのは本当だったけれど。

もっと色んな事を知りたかった。
どうすれば、彼が悦んでくれるかだとか、そんな事を。

和瑳が私を、過去の彼の恋人達(何人いたか知らないけど)と比べる様
な事は一度もない。だからそれで私が何かを危惧する様な事は何もなか
ったのだけれども、だけど、彼が好む様に”する”事が出来た人だっ
て、多分居た筈だ。

私は知らない事の方が多い。
知らないからというのを理由に何もしないのは嫌だった。

それはこの行為に限らずだけど。

「ん、沙英、もういいよ」

彼の言葉に、顔を上げた。

「…ごめんなさい、私、上手に出来てなかったですか?」
「いや、良かったよ」
和瑳は笑う。
彼の余裕ありそうな表情は私を悲しくさせた。

私が彼にされている時は、何もかもが判らなくなるぐらい溺れてしまう
のに。

「何?その顔は」
和瑳は微笑んで私の頬を撫でる。
「私、もっと、ちゃんと、したいんです」
「ちゃんとって?」
「もっと、私…」
「うん、何?」
「和瑳に、気持ち良くなってもらいたいんです」
「うーん、気持ち良いよ?」
「違います、もっとです」
「何が”違う”のか、判んないけどねぇ」
軽く肩を押されて、少しひんやりとしているシーツの上に倒される。
ふたり分の重みにベッドが沈む。

「こっちに余裕が無くなるのは困るんで」
黒瑪瑙のような瞳が、甘い煌きを持ち始める。
そういう瞳で見つめられたら、私は苦しくなってしまう。

胸の奥にある塊が、甘く疼いて堪らない。

「和瑳」
「…沙英の、その、甘える様な表情、凄い堪んないね」
「え?」
足を開かされて、その間に彼が身体を置いた。
準備するにはそうそう時間はかからず、和瑳は小さく笑った。
「欲しかったんでしょう?」

先ほどまで甘く疼いていたのは胸の奥だった。
だけど、その疼きを強く感じるのは、今は身体の奥になっていた。
お腹の中がきゅーっと痛む。

「今日一日、俺に抱かれる事を想像していたんだろ?やらしいね、君は」
小さく笑う彼の表情が、先刻までとは違う様に見えて身体が震えた。

火がつく。

まだ入れられてないのに、興奮で身体が震え、呼吸が乱れていく。

つっ、と彼がその部分で私の身体への入口を撫でた。
ほんの少しの刺激なのに、私の熱が一気に高くなってしまう。

「か、和瑳」
「そんなに欲しいの、これが」

入口にその部分を僅かに当てながら彼は言う。
大きな期待と比べて小さすぎる身体への刺激に、内部が焦れてくる。

駄目、身体が自由にならない。
抑えられない。

彼が動き始めるまで、後もう少しだと判っているのに、その”あと
もう少し”が我慢できなかった。

身体を浮かして、自分から彼のものを受け入れる様に沈めていく。
内壁に、望んだ刺激が与えられ目が眩む。

「本当、やらしい子」
彼が笑った。
「だ、だって…だって」
「自分から入れにくるか?フツー」
「意地悪、しないで下さいっ」
動かない彼の身体を、腰を掴んで引き寄せて、自分の最奥まで貫かせる。
疼きの強い部分に彼が当たって声が漏れた。
白い画用紙の上に垂らしたインクがじわっと染み広がっていく様な速度
で、体中に快感が広がっていく。
「ぅ、う」
ゆるやかな快感にさえ、身体が震えてしまった。
「…感じすぎ」
彼が腰をひいて私からそれを抜き出していく。
抗議の声を上げようとした瞬間、激しく突き上げられた。

「ぃ、あぁっ!」
「これが欲しかったんだろ?」
最奥で身体を揺らした後、抜いては入れるを繰り返す。
出し入れされる摩擦が内壁にどうしようもない快感を生ませた。
「あっ、あっ…や、やぁ…ん」
「嫌なら止めるよ?抜いていいのか」
「いや、いやぁ」
彼の身体を強く抱き締めて、私は自分から腰を揺らした。
快感を貪る様に。
「…やらしい腰の揺らし方、するよね。そんなに気持ちいいの」
耳元で和瑳の笑う声が聞こえても、身体を動かす事が止められない。
「あぁ、和瑳、和瑳っ」
「後ろ向いて、手、ついて」
引き抜かれて体位を変えさせられる。
再び彼が入ってくるのに時間はかからず、私は夢中になって身体を動か
した。
きゅっと強くお尻を掴まれる。
「入ってる所、丸見えだね」
「…ん、ぅ」
「沙英の身体の中を出入りしてるのが良く見える」

多分和瑳はそんなに動いてなく、私が彼に身体を押し付けるような感じ
で出入りさせているんだと思った。
そんな様子を彼は何を考えて観察しているのだろうかと頭の片隅では思
ったけれども、それがどうこうと考える余裕なんて今の私には微塵も無
かった。

「体液がぐっしょりで、そんなに感じちゃってるの」

動くたびに聞こえてくる水音で、自分がどれだけ濡れているのかが判る。
溢れて、零れているのも判ってる。
だけど、多すぎる潤滑の液体で、快感が損なわれるかと言ったらそれは
全く無かった。
身体の中いっぱいに和瑳のものが隙間なく入っているから。

「これだけ濡れてるのに、きついね、君は」
「か、ずさが…大きいんじゃないのですか」
私の言葉に彼は笑う。
「どうだろうねぇ、こんなにきつく吸い付いてくるのは、君が初めて…」
和瑳は言いかけて止めた。

あ、誰かと比べられている。
というのはすぐに判った。

「…それは、駄目な事ですか?和瑳は良くないんですか?」
「ん、いや、そういうのではないよ」
「私の身体は、和瑳を良くしてあげられないですか?他の方と比べて駄
目ですか?」
「違うよ、そうじゃない」

仕方のない事だって判ってる。
だけど、なのに、彼の過去の女性にまで私は今激しく嫉妬している。

なんで?なんでこんな感情が生まれるの?
なんでこんな感情を私は持っているの?

そして嫉妬以上に飲み込めない感情があって、胸を焦がした。

口に出来ない言葉があった。

言えないのも苦しい。

だけど、言うのも苦しい。

私が望んで良い事じゃないって判ってるけど、その激しすぎる感情に、
自分という物でさえブレて判らなくなってしまう。


愛されているだけで、十分でしょう???

判ってる、判っているから!!

必死に自分を押さえ込む。

感情に蓋をするのは得意だった筈。

それなのに、コントロールできない感情を押さえ込むのは困難だった。

「もっと、もっと私で感じて下さい、何もかも判らなくなるぐらい溺れ
て下さい。どうしたら、もっと和瑳が良くなれるのか私に教えて下さい。
私、どんな事だってします、だから」


一番言いたい言葉を飲み込む事が出来て、私は安堵した。

だけど、溢れる涙は止められなかった。




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