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● 熱情の薔薇を抱いて --- ACT.45 ●

  

「んー、この状態でそんな風に言われると”性的な”意味で?とか思う
よね」
くすっと彼は私の耳元で笑った。
「え?あ、あの…えっと、そ、そういう、のも、も、勿論、ですが」
「なんで、しどろもどろになってるの」
「そ、そういうのも、含めて、です」
「ふぅん、そう、じゃあ、立ってあちら側のバスタブの淵に手をついて
見せて」
「えっ、あ、はい…」
言われた通りにすると、どう頑張ってみても、和瑳に見えるような体勢
になってしまう。
「丸見えだね」
「和瑳…これは、あの…」
「沙英のその部分って、凄くおいしそうだよね」

おいしそう。

『沙英ちゃんって、華奢なのかなって思わせる様な身体のつくりなのに、
肉付きは悪くない感じでおいしそうだよね』

昔彼がそんな風に言っていたのを急に思い出し、身体が熱くなった。

あれって、あれって…”そういう”意味だったんだ。

彼の家に、住み始めた時から、和瑳はその対象として私を見ていたんだ。
「何に反応して、そこがひくついてるのかな」
「あ…んまり、見たら、恥ずかしいです」
「そんなの勿論判っててやらせてる」
和瑳はバスタブの淵に肘をついて頬杖をつきながら私を眺めている。

”和瑳”が今其処に居るのに、胸の中で過去の和瑳も浮かんでくる。

私より6つ年上だからなのか、誰にでもいつもそうなのか、彼の話口調
は穏やかで、優しいものだった。

だけど、時折彼の話し方が変わる時があって、和瑳が感情的にものを言
う時は、私の事を”おまえ”と呼ぶ。

(そういうのも、なんだか、ちょっと…)

支配されているような錯覚に心が激しく震えた。
和瑳にだったら、そうされたい。
私の全部を支配されたい。

激しく縛り付けて欲しい。

―――――無関心なんて嫌だ。

もっと見られたい。
私だけを見ていて欲しい。

その黒瑪瑙のように美しい瞳が見詰める先はいつでも私であって欲しい。

いつでも、いつまでも、私の事だけを思っていて欲しい。

”私だけ”を。


「んっぁ、ん!」

不意に身体の中に緩やかな快感が広がる。
和瑳の指が、ゆっくりと差し込まれ、引き抜かれていく。

「何もしてないのに、とろとろしてるね」

緩やかな抜き差しが、内部に大きな快感をもたらして来る。
そんな風にされたら苦しくなってしまう。
内側の欲求が外に広がっていくようで…。

「駄目…苦しい」
「そう」
「意地悪、しないで下さい」
「何が意地悪?」
緩やかな指の動きを止めないまま、彼は笑う。
「そういうの、全部、です。私が欲しくなるの、知ってて」
「何が欲しくなるって?」
ふふっと和瑳が笑った。
「…っ、意地悪、です」
「意地悪だと言うなら、俺が何を求めているのかも判っているんでしょ
う?そういうのにも、応えてくれるって事じゃないのか?」
「う、ぅ」


判っている事。

私が私を求めて欲しいと強く思うように、和瑳も求められる事を欲して
いる。

大それた考えではあるけれど、和瑳と私は少し似ているのかも知れない
と思えた。

求められたいと、強く、強く思ってる。

私が私と向き合えば、向き合うほど、その心に似た部分が多いと思えた。


『もっと俺の事見て欲しい。まるで存在しないのと同じ様な目で見られ
るのは少し苦痛』

存在しないのと、同じに見られる。

それはどれほどの苦痛かと、考えるまでもない。
だって存在している人間だから。


和瑳の強さはそれをきちんとアピールできる事。
私の弱さはそれを言えなかった事。
言えば、叶わず、苦しんだかもしれない。
でも言わなかったから、何もしなかったから、諦めた筈の傷口が治らな
いまま何度も開いて血を流す。

「和瑳が欲しいです、入れて下さい」
「…ああ」

ぱしゃんとお湯が跳ねて、和瑳も立ち上がる。

泥濘(ぬかるみ)の場所に入り込んでくる熱い塊。
指の動きと同じ様に、ゆっくりと彼はそれを動かした。

彼がゆっくりと動くから、その大きさや硬さがはっきりとした感覚で伝
わってくる。
自分の内部が動いている事が判るほど、感覚が鋭敏になっていく。
でもそれと相反するように思考能力は溶かされてしまう。

身体に湧き上がる甘い快感に、何も考える事が出来なくなる。

「気持ち良い?沙英」
「は、い」
「そう」
「もっと、動いても、平気です…和瑳が良いように、して下さい」
「うん、でも俺はこれでも十分良いと思ってるよ、沙英の中は入れてる
だけでも、いきそうなぐらい気持ち良いから」

緩やかに動いているけれど、それは同じ動作ばかりではなく、私の内部
全体を探るように動いている。
だから感覚が慣らされる事が無く、常に新しい快感が湧き上がって来て
いた。
そういった快感を、与えられれば与えられるほど、もっと大きなものが
欲しいと貪欲になってしまい、知らず知らずのうちに自分から動いてし
まっていた。

「やらしい動き方するよね」
和瑳は笑いながらそう言った。
「だ、って…もっと、欲し…いんです」
「何が欲しいって?」
「和瑳の…」

深い部分まで差し込まれて、悲鳴にも似た声が出る。
強すぎる快感に意識が遠くなりそうになる。

だけど、欲しいって、身体中が求めてる。

「可愛い顔して、君は本当にやらしいんだな」
「…私を、こんな風にしたのは、和瑳です」
「本当に俺しか知らなくて良いと思えるの?一生俺だけだと」
「和瑳しか、要らない、だから、んっ、もっと…して下さいっ」
「もっと言って、もっと言って俺を誘って」
「ああ、和瑳っ」

熱に浮かされる。
激しい情欲に飲み込まれる。

気持ち良いという感覚が、こんなに強いものだなんて。

穏やかで、優しいものではなくて、全部奪うように私を飲み込んでいく。

”そこ”まで辿り着こうとする意識が強すぎて眩暈がする。

「沙英」
「あああっ」
ぐっと強く押し込まれ、昇り詰めそうな場所まで来ているのに、彼はそ
こで動きを止める。
止める上に私が自分で動けないように身体全部で壁に押し付けてきた。
「や、和瑳、止めないで…」
じりじりとした熱に焦がされていく。
「いきたいの?」
耳元で、小さく、低く、彼が囁く。
そんな声にも身体がぞくりと反応した。
「い、きたいです」
「じゃあ、言って」
「え?」
何を彼が望んでいるのかが全く判らず、私は和瑳を見上げた。
「君が俺に何を望んでいるのか言いなさい」
「の、ぞむって??」
どろどろに思考が溶かされてしまっているから、彼が何を言っているの
かが理解できない。
「何か望む事があるんだろう?」
またゆっくりと彼は動いて、私の身体に快感を忘れさせないようにして
くる。
だけど私が動こうとすると腰を掴んでくるからそれが叶わない。
「ああ、いや、和瑳…お願い」
「いかせてあげるよ、沙英が俺にどうして欲しいのか、本当の気持ちを
ちゃんと言えたら」
「本当の、き、もちって??」
「一生俺の傍に居たい、その他にも望む事があるんだろう?」
「え?あ…」
ひくんって身体が跳ねた。
心の深い場所に彼が触れようとするから。

強く、強く望む気持ち。

それは私の居場所だ。

「ひどいです、こ…んな時に、そういう、の」
「素直に言わないからだろ?」
「和瑳は、ひどいです」
「そういう男に君は惚れたのだから仕方ない」
ぎりぎりまで動いては、止めるを繰り返されて、気が狂いそうになる。
「和瑳、だめ、そんなの…本当に、おかしくなっちゃう」
「どうされたいの?どうしたら君は満足出来るの」
「私は、今でも十分…」
「嘘をつくなって言ってるの」
「ああっ」

なんで、そんな私の”ぎりぎり”の感覚を判るのか?というぐらいまで
高めて彼は止める。
そこまでのぎりぎりの場所でなければ、どんなに焦がれた快感であって
も、手放すことは出来るかも知れなかったというのに。

「ほ、しい…の、一番、なんです」
感覚が意識が、何もかもが、蓋が出来ないくらいに溢れてて、涙がどっ
と溢れた。
「一番?」
「か、ずさの…一番に、なりたいんです」
「それは、もうとっくにそうだけど…君が思うのとは違うのか?」
「私の事を、一番に、愛して欲しい…んです」
「一番、愛しているよ」
私は首を振った。
「じゃあ、どんな一番?言って」
「……」
「言いなさい」
「ああっ」
彼は身体を揺らす。
「言わないと、また止めるよ」
「ん、あ…いやっ、もう止めないで」
「じゃあ、言いなよ」
「っ…ン、和瑳の、大事な、人達の中でも…私を一番って」
「俺の大事な人達って何?」
「か、ぞく…です」
「ああ、そういう事」



我慢させられた分、弾けた快感は強く、本気で意識を失ってしまうかと
思えるほどだった。






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