上質なバスローブに身体を包まれてベッドに寝かされる。 その横で、和瑳が寄りそうように寝転び、私の頭を撫でた。 「大丈夫、そういう意味でも、君は俺の中で一番だから」 ううん、と私が首を振ると彼は笑った。 「何が、違う?」 「すみません、調子に乗って我侭になっているだけなので、その辺の事 は気にしないで下さい」 「でも、それは君の強い望みなんだろ?だから言えなかった、違うか」 「……すみません」 「謝るなって」 彼はそっと私の頬を撫でた。 「本当に、君を一番に愛しているよ。信じて」 「……」 見上げると、ベッドに頬杖をつくような格好で私を見ていた彼と目が合 う。 「口ではどんな事でも言えるだろうと、疑ってくれるのは構わない。で も俺の気持ちは真実だから」 「和瑳が、ご家族の方を大事にされているのは知っています。だから」 「一番になるのは無理だと?でもなりたいという気持ちがあるのも本当 だろ?」 「……はい」 「大丈夫、君が一番だから」 「…はい」 「ま、その辺の事はおいおいとして、他にもあるだろ」 「―――――え?」 「君の不安材料だよ」 「い、いえ、それは、な、ないです」 「しどろもどろで、即答されても、返事を後出しするより余程嘘っぽい と思うよ」 「な、ないです。本当に」 「強く言い張るのもねぇ、まあ、それに関しては俺から言ってあげよう か」 「え?」 彼は笑ってその手の甲で私の頬を撫でた。 「子供、だろ?違うか」 言い当てられて、彼の策略にはまるようにして私は息を詰めて黙ってし まう。 「子供が出来て、愛情の注がれ先が変わる事が不安である」 「……」 「違うか?」 苦しくて、涙が零れてしまう。 心の不安がそのままに、表立ってしまう。 「ねえ、沙英」 私の指が彼の指と絡み合う。 きゅっと彼は手を握った。 「俺は一生、家族は沙英だけで良いと思ってる」 「…え??」 「瀬能の名前でも、高槻の名前でも、そんなのどっちでも構わない。だ けど同じ名前で、誰から見ても、俺たちは家族なのだと思えるようなカ タチはとりたいと俺は望んでる。でも、それが沙英の大きな負担になる んだったら、それだってしなくても良いと思っているよ」 「和瑳?」 「これから先の人生は、君には笑って過ごして貰いたいからね」 私は強く彼の手を握り締めた。 「結婚、したくないとかではないんです」 「うん」 「だ、けど、不安なのは、和瑳が言う通りなんです」 「ああ」 「怖いんです」 変わってしまう可能性があるかも知れないと思うから。 比べられて、それでもなお自分が選ばれるという自信なんてないから。 そんなどうしようもない感情を向ける私に、和瑳は優しく微笑んだ。 「君だけが傍に居てくれれば、俺はそれで良い」 「…和瑳、ごめんなさい」 「うん、だから、謝る必要は全然ないんだよ、俺だって沙英をずっと独 占していたいと思うから」 「私は、ずっと、和瑳のものです」 「ああ」 彼の唇が、私の唇に優しく触れる。 私は強く彼の身体を抱き締めた。 「和瑳に愛して貰わなければ、私は、もう…駄目なんです、我侭な感情 ばかりを貴方に押し付けて”良い”という風にも思ってないですけど、 それでも叶えて貰いたいと思う気持ちも本当なんです」 「可愛い事を言ってくれますね」 和瑳は笑った。 「もっと望んで、俺を」 「和瑳だけが、私の居場所なんです、だから、誰よりも、私を愛して下 さい。私、貴方の一番になりたい」 「沙英」 「和瑳じゃないと駄目なんです」 「ああ」 「一番じゃなきゃ、嫌なんです」 強い力で抱き締められる。 呼吸が一瞬、苦しくなるくらいの強さで。 「和瑳が、好き、愛してます」 この人が居てくれるなら。 今までの過去の事だって受け入れていける気がする。 どんな出来事だって、私が和瑳と出逢うまでの道のりだったのだと思え れば、全部受け入れられると思えた。 どこに繋がっているか判らずに、泣きながら歩いてきた暗がりの道だっ たけれども…。