****** 食事が終わり、さぁ寝ようか。といった段階になって、沙英が隣のベッ ドでちょっと何か言いたそうな表情をした。 「どうかした?」 「あ、はい…あの…」 「うん?」 「今日は、その…別々に寝なきゃ、駄目でしょうか」 「どういう事?」 彼女の言いたい事は判ったけど、俺は笑って自分側のベッドに寝転んで 頬杖をついた。 「…一緒に寝たら、駄目、ですか?」 ちら、と沙英は俺を窺うようにして見てきた。 「良いよ、おいで」 ベッドをぽんと叩くと彼女は嬉しそうにこちらにやってきた。 普段は一緒に寝ているけれど、ベッドが2台あるから別々に寝ないとい けないと思ったらしい。 小さな身体を摺り寄せるようにして俺の傍に来る彼女。 そんな仕種が可愛いとも愛おしいとも思えたけれど、肌の感触を知って しまうと底なしの欲望が頭をもたげてくるのも本当だった。 ほんの少し、彼女の温度を感じただけでもだ。 まあ、一緒に寝たいと言ったのは彼女の方だし? ちょっと笑ってから、短いキスをした。 短いキスで始めたそれは、長い夜の暗示。 沙英の身体を思うままに貪る。 緩やかな感情をキープしているつもりでも、どこかで箍(たが)は外れ てしまう。 多分、今日がそんな日だった。 彼女を初めて抱いた夜よりも、興奮も快感も大きく、また、それを沙英 が受け止めてくれるから、欲求が助長されていく。 吐き出しても吐き出しても、まだ出したいと思ってしまう。 足りないと、沙英を獣のように犯し続ける。 人の皮を被った野獣。 その夜の俺はまさにそんな感じだった。 ―――――もう、一生、彼女が傍に居てくれる。 大きな安心感と、ある程度満たされた征服欲。 俺のものだと何度も口に出して言う。 柔らかなその身体も、心も、全部俺のものだ。 細い腰を抱いて、何度も何度も自分の塊を打ちつける。 外側の柔らかさ以上に内部は柔らかく俺を包み、時には締め付け狂わせ る。 そこだって、俺のものだ。 だけど、彼女を”俺のものだ”と思う以上に、俺は彼女のものである事 に変わりない。 俺を受け止める事が出来るのは沙英しか居ない。 また執着が強くなり、比例するように欲求が高まる。 もう自分では押さえる事なんて出来なかった。 ****** 「一度だって、君が本気で拒んでくれたら、止められたかもしれなかっ たのにねぇ」 あくまでも過去形。 実際はどうだったかなんて、そんなの知らない。 終わった事だし。 「…なんか、やっと、いつもの和瑳になったって、感じです」 くったりとした沙英が俺を見上げて言う。 「ああいう俺は、怖い?気持ちが悪い?でも、ごめんね。あれも俺なの で」 「い、いえ、怖いとか、ましてや気持ちが悪いとか、そんな風には思わ ないですけど」 「けど?」 「純粋に体力、が…続きません、です」 「ああそう」 俺は笑った。 体液でどろどろになった沙英をお風呂に入れて、ベッドに運んで、それ が今現在。 「寝て良いよ」 俺の言葉に、彼女がちょっと上目遣いでこちらを見てきた。 その疑わしそうな視線に思わず笑ってしまう。 「ホントホント、コンドームももうないしね」 あればやってるのかっていう話はまた別として。 「……和瑳、怒って、ない、ですか?」 「え?怒ってないけど、何に対して?」 「私が、我侭ばかり、言う…から」 「どんな我侭?」 「結婚は、したいけど、子供は……って、そういう、事です」 「ああ、その件は君が感じているほど俺はなんとも思ってないよ」 「そう…ですか?」 「うん」 彼女の頭をそっと撫でた。 「付き合い始めて日も浅い、まだまだ君を俺に甘えさせなければいけな いのに、そういう意味でも子供はね」 俺はちょっとだけ息を吐いてから言う。 「だけど、将来、君の気持ちが変わるときがあったら、それはまたその 時話し合えば良いと思うよ、だから沙英はいつでもどんな感情も隠さな いでいて、君に願う事があるとするならそれぐらいだよ」 「和瑳……ごめんなさい」 彼女がぎゅっと俺に抱きついてくる。 「なぜ、謝る」 「私、もっと…変わりますから」 「俺は今の君で良いけどね」 だけど君が望む、君のカタチがあるのなら俺はずっと傍で支えていたい。 どんな時でも―――――。