風の音がする。 強い風に木々がざわめいていた。 枝がしなり、葉が擦れ合う音がする。 嵐にでもなるのだろうか。 「独占欲が、強いんだよ、俺は」 ベッドに寝転ぶ私の頭を撫でながら和瑳が言った。 「本当、他人がうざったくなるぐらいにね」 「…他人、ですか」 「沙英を好きな人間は俺だけでいいとさえ思う」 「和瑳だけが愛してくれていれば、私はそれで十分なのですよ?」 「うん、ありがとう」 「本当ですよ」 「うん、判ってる」 彼は笑った。 「君が、俺の一番でありたいと言うように、俺も君の一番でいたいし、 最も近い人間でいたい」 「はい」 「…だから、結婚したいと、強く思うんだよ」 柔らかく彼は笑った。 だけど、どこか寂しそうにも見えて、その理由が判らないまま、私は和 瑳を見詰めるしかなかった。 「君と、家族になりたい。変な、こだわりなのかもしれないけど」 「それは…私も、思うので、変とかではないです」 「うん、ありがとう」 和瑳はそう言って左肩を撫でるような仕種をした。 ときどきする、彼の癖だ。 「和瑳…」 「結婚自体は、急いでいないよ。君の意思がしっかりしているのなら何 年先になったって構わない、結婚する事で君に何かを背負わせたく無い しね」 「結婚はしたいです、でも、あの…」 ふっと思う。 自分の家族である人達が、ちゃんと式に参列してくれるのだろうか?と。 まるきり想像が出来ない。 姉のときと同じようにはいかない、そちらの方がかえって容易に想像で きてしまえるので悲しくなる。 「何が、心配?」 彼は優しく笑って、私の頬を撫でた。 「その…両親が、式とかそういうのに、参列してくれるのかなぁって」 「ああ、そっちか、なるほどね」 「…はい」 「式自体も、やらなくても俺は構わないし、やるとしても2人だけで挙 げてもいいわけだし」 「でも…」 「君のやりたいようにすればいいんだよ」 「…はい…」 「沙英がやりたいならやればいいし、やりたくないならやらなくていい、 ただ、遠慮とかは無しにして」 「はい」 「沙英のドレス姿は見たいかな」 そう言って和瑳は笑った。 「可愛いんだろうなって、想像できるし」 「…可愛いとかは、どうだか判りませんけど」 「可愛いに決まってる」 面白そうに笑う彼に思わず口元が綻んでしまった。 「どんな事においても、君を悲しませたりはしない」 「…はい」 頬を撫でてくる彼の手に、自分の手を重ねた。 幸せになりたい。 だけど、その数倍、私が彼を幸せにする事が出来たらどんなに良いか。 そんな事を思った。 「…ひとつ、だけ」 彼がぽつりと言った。 「はい」 「ひとつだけ、お願い事がある」 「なんですか?」 「……両親に、会って欲しい」 「あ、はい…それは勿論、です」 「うん」 和瑳は小さく笑った。 「え…と、その、いつ、お会いすれば、良いでしょうか?」 「んー、そうだなぁ」 少しだけ首を傾け、考えるような仕種を彼がする。 「出来たら、次の休みにでも」 「判りました」 「うん」 「あの…うちの両親、には、もうちょっとあと、でも良いですか?」 「ああ、それは全然構わないよ、君を紹介しておきたいだけだから」 「式の事とかちゃんと、決める前でも大丈夫ですか?」 「うん」 ふっと、彼は小さく笑う。 「いろいろ、何か聞いてきたりとかは、しないから」 笑う彼の横顔は相変わらず美しいものではあったけれど、だけど、ひど く寂しそうにも見えて心が疼いた。 「和瑳?」 「じゃあ、次の土曜にしようか」 「あ、は…はい」 いつもと同じ様に見える彼の横顔。 だけど、私の心の中で何かが引っ掛かっていた。