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● 熱情の薔薇を抱いて --- ACT.9 ●

  

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あの後すんなり身体を洗って(洗われて?)お風呂から出ると、
和瑳のベッドで寝る事になる。

「今日は、しないから」
と彼は笑って横になっている。
「するのは…あの、良いんですけど…」
「ううん、沙英の身体の事を考えないとね」
和瑳はにっこりと笑った。
あまりにも爽やかに笑顔を作られると困ってしまう。

だって、和瑳は私を抱きたいと思ってる…と思うから。

「義務感で抱かれなきゃ、とか思うのはダメ」
和瑳はそんな事を言った。
「義務感なんて無いです」
「じゃあ何?良いでしょう、別にしなくっても」
「で、でも…」
「明日も会社だし、寝なきゃね」
ベッドで寝転びながらリモコンで電気を消し、後ろからそっと私を
抱き締めた。

本当にしないのかな、と思うと少し残念な気分になってくる。
少し?
ううん…少しではない。

抱かれて痛みがあるのは本当の事だったけど、彼と繋がっている間
の安心感は他の何にも変えられない。

彼の私を抱いている時の切なそうな表情を見るのも好きだった。
普段見られないから余計にそう思えるのかもしれなかった。

「…かず…さ、あの…」
「何?」
「私は…その、和瑳に抱かれたいです」
「そう」
「駄目ですか?」
「んー、君のそれが俺を気にしているのだったら、やだなって思う
よ?」
「違います」
私は振り返って体勢を変え彼のしなやかな身体にしがみつく。
ふわりとボディーソープの良い香りがした。
「私が抱かれたいって思っているんです。本当です」
「…そう」
密着している部分に硬い熱を感じた。
その塊を感じた瞬間に胸がきゅっと切なくなり同時に身体が熱くな
る。
彼も私を抱き締めてくれる。
「沙英」
彼の長い指が誘う様に私の顎を少しだけくすぐる。

目を開けるとすぐ傍に和瑳の黒瑪瑙の様な瞳があった。
ちゅっと短いキスが唇に落とされる。
彼の唇は柔らかいのに弾力があって触れられると気持ちが良い。
他の人の唇がどんなものかは判らないけど、彼の温度は凄く良かっ
た。
濡れた舌の感触も私は好きだった。
絡め取られると、ふと我を忘れてしまいそうになる時がある。
和瑳のキスに応え、或いは自ら積極的になってしまう時もあった。

「沙英のキスってえっちだよね」
そんな私に向かって決まって彼はそう言うのだ。
そう言われる事も、何かの感情に火をつける様な感じがする。

キスを続けながら、胸を揉まれる。
揉まれる事は嫌いではない。
だけど今はそれがひどくじれったい感じがしてならなかった。
やんわりと揉まれると気持ちが良い、だけど加速する様にもっと、
もっとって気持ちが強くなる。
持て余す感覚だった。

「…ん…沙英…」
甘いトーンの声。
囁く様に彼が私の名を呼ぶ。
もともと彼の声は好きだったけれど、こういう声も堪らなく好きだ
と思えた。
色っぽく、艶めかしい声色。
普段は書類を捲っている彼の指が、私を撫でている。
私の身体の色んな場所を。
柔らかく動く唇が、私の肌を滑っていき、まるで感じる場所を探し
ているみたいに動いていた。

やがて寝間着を脱がされ裸にされる。
彼もまた着ている物を脱いでその逞しい肢体を私の前に晒した。

男の人の身体ってこうも綺麗な物なのかと思わされるその作り。
筋肉の盛り上がり方とか、腕の筋の感じとかが本当に綺麗だった。
痩身に見えてこんなにもがっちりとした身体なのは反則だと思える。
腰だって、こんなに細いのに。

「…沙…英…」
そっと彼の胸に手を滑らせると、和瑳は瞳を閉じる。
伏せた睫毛が長くて彼の美しさを際立たせた。

なんで、こんなに綺麗なの?綺麗だと思えるの?

意識して見れば見るほど溜息を漏らしてしまう様な美しさだった。
以前は全くそんな風には見えていなかったというのに不思議だ。

少し薄めの唇も、綺麗に整った形をしている。

どのパーツも整っていて綺麗なのに冷たい感じがしないのは、表情
が柔らかいからだと思えた。
そして、その表情は私を魅了する。



彼を撫でる私の掌を和瑳が口付けてくる。

「和瑳…好き、凄く好きなんです」
「ん…」
彼は私の手に頬を寄せてとても嬉しそうに微笑んでくれた。
その瞬間、堪らなくなって和瑳にしがみつく。
「俺も好きだよ、とても…ね」
「沢山、好きなんです、私は和瑳の事が…」
「うん」
唇を塞がれる。
柔らかく、そのラインを辿られて、その後吸われた。
「俺もいっぱい、好きだよ。心の中が全部沙英に支配されてるみた
いにね」
少しだけ唇を離して和瑳が言う。
心の中が全部私に支配されている?
言葉を反芻させると胸が苦しくなった。
目頭が熱くなって、涙が零れる。
「和瑳は、ずるいです…いつも、私が嬉しいと思う言葉を的確に言
って来て」
「俺は、心で感じている有りのままを言葉にしているだけだよ」
彼はちょっとだけ笑ってから再びキスをしてくる。
「ん、ん…和瑳、和瑳…好き…」
「…っ、ふふ…名前、呼ばれるの…堪らないね」
キスを繰り返しながら、ベッドの傍にあるナイトテーブルに手を伸
ばしている気配を感じた。
それだけで、身体がぞくっとする。
繋がれる事への期待から?

準備を終えた彼の身体の一部が私の入口にあてがわれる。

「挿れるよ?」
「…はい」

ゆっくりと和瑳の身体が私の中に入ってくる。
僅かな痛みと圧迫感、窮屈さの後に言い様のない感覚が内部で湧き
上がり、思わず身体に力が入った。

「痛いの?」
私を見下ろして彼が言う。
「いえ、大丈夫…です」
「そう、だったらいいんだけど」

最深部までは入れずにゆっくりと彼は抜き差しをした。
「ん、ぅ」
「痛くないなら、我慢しないで声を出して」
「で…も…」
「大丈夫、俺しか見てないから」
ふふっと意地悪っぽく彼は笑った。
それから私の膝を折って、膝の皿の部分に口付ける。
「…ん、まだ少ししか入ってないのに…凄く、良い」
瞳を甘く煌かせて和瑳はそんな風に言った。
「沙英を抱いてるって思うだけで、滅茶苦茶昂るよ」
短いキスを何度もしてくる。
少しずつ彼の身体が深くまで入って来ていた。
鋭く感じる感覚、甘い快感、私はそのどちらにも翻弄される。
ほんの少し彼が動くだけで、思考も身体もどろどろに溶けて無くな
ってしまいそうになる。

自分の意識が保てなくなる。
こんな感じは彼に抱かれて初めて知った感覚だった。

自分が自分で無くなっていく感じ。
否応なしに漏れてしまう声。

視覚、聴覚、触覚、味覚までも全部彼で埋め尽くされている感じが
した。

彼の舌の味、少しだけ煙草の苦い味がする。

繋がっている部分は溶けそうな位熱い。
熱いと感じるのは温度の所為ではなく、触れ合う事で起きる快感の
為。

和瑳が私の腰を掴んで揺らした。
徐々に激しさが増してくる。

「っ…は…沙英、好きだよ…」
切なそうな声を上げて彼が言う。
「好き、大好き…」
彼への気持ちを口にすると一層想いは募り、胸が切なくなるのと比
例して不思議と快感も強くなっていった。

しっかりと抱きしめられて、何かに誘導する様に和瑳は身体を揺ら
す。
何度も何度も。

「…あぁ…沙英…もっと、もっと俺を…欲しがって」
「ん、ぅ…あっ」


―――――壊れる。


精神が崩壊するんじゃないかと思う程の大きな快感が私を襲い、そ
れは弾けた。


「あぁっ」

びくびくと身体が跳ねる。
それはもう自分の意思ではどうしようも無く、ただ受け入れる事し
か出来なかった。

「ホント、沙英はどんな顔も可愛いね」

目の端に滲んだ涙を掬いながら彼は言った。
「見ないで…下さい」
「ううん、どんな卑猥で淫らな表情も、見逃さないよ」
そう言って和瑳は私の耳元で小さく笑う。
「…そういう表情だからこそ、見逃しはしない」
彼は激しく身体を使った。
大きな快感の後の緩やかさは一気に飛んでいき、またすぐに壊れそ
うになる位のそれはやってくる。

「や、だ…やだ…」
「イヤ、じゃないでしょう?もっと下さいっておねだりするんだろ
う?ほら、言って」

彼のそこは、今まで触れた事がないと思う程深く入り込んでくる。
思わず悲鳴みたいな声が出てしまった。

「…ごめん、まだこういうのは痛かったか」
「和瑳、和瑳…」
涙が溢れた。
限界ぎりぎりで、本当に狂うんじゃないかと思える波に溺れそうだ
った。
「もっと、もっと…」

貴方が欲しい。

告げる言葉を零した唇に彼は激しく口付け、舌を絡ませ、打ち付け
る様に腰を使った。


壊れてしまう。
この熱と激しい感情と、剥き出しの快感に。


何度も何度も、私はそう思った。







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