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rit.2〜りたるだんど〜 STAGE.11

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考えないようにしていても彼の事は考えてしまうというのに、わざわざ“考
えろ”だなんて。

――――心の中で燻っているものが大きくなっていく気がする。

彼の声や、切れ長の瞳、薄く形の良い唇。それらのものを思い出すだけで胸が
ざわつき、温もりを知りたいと騒ぎ始める。
喫煙所前での短いキスだけでも私は火がつけられたようになってしまっている
のに。

零司さんを愛しいと思えば思うほど、触れたい気持ちも触れられたい気持ちも
増していく。
以前のようにおぼろげな形ではなく明確であるから余計に厄介だと思えた。

(零司さんにキスしたい、されたい……それ以上の事だって)

煽られた心が、どきどきと高い音をたてる。
胸の鼓動は全身を甘く震わせているようで、指先まで痺れてくるような感じが
した。
彼の男らしい身体つきは堪らなく私を欲情させる。
欲情してしまうから、考えないようにしなくてはと思うのに馬鹿正直に零司さ
んの命令に従うようにして彼の事を考えてしまう。
勿論、零司さんは“身体を”とは一言も言っていない。
言ってはいないけれど、私がそれを考えてしまうのも計算ずくではないかと思
えた。

……大体、今夜などと彼は言ったけれどそもそも今晩はライブバーに行く予定
が既にあって、仕事が終わった後も私が長時間“お預け”をくらうのは判り
きっている事で。

持て余すほどの大きな欲望を前にして、私は深い溜息をつくしかなかった。


******


「なんだか機嫌が悪くなっている?」

仕事が終わり、ライブバーに向う電車の中で零司さんがそんな風に聞いてくる。
「……悪くはないですよ」
「じゃあ、なんで俺の方をちゃんと見ないわけ?」
「零司さんってそういうところ本当、意地悪ですよね」
「そういうって何だよ」
くくっと彼は笑いながら言った。
この人、絶対判ってて言ってる。
「花澄?」
「ひゃっ……」
零司さんが指を絡め、手を握ってくるから思わず身体が跳ねてしまった。
「何、その反応」
「や、やめて下さい、そうやって煽ってくるの」
「煽るって、何を」
「ぜーったい面白がって楽しんでますよね」
「何を言っているのか判らないけど?」
そう言いながらも零司さんは薄く笑っている。
こっちは掌から伝わってくる彼の温度に翻弄されているというのに、本当に意
地悪だ。
「ところで、俺の命令には従ってくれたのかな?」
「……勿論、ですよ」
「へぇ」
面白いものを見るような目で、彼は私を見下ろしてくる。
「零司さんはどう思っているのか判りませんけど、私は命令されなくっても、
いつも考えているんですよ?」
「俺を?」
「そうです」
「へーえ」
「信じてないんですか」
「いや、信じてないというわけじゃない。まぁ実感はまるでないけど」
「ひどいです」
「おまえがそうだと言わないからだろ」
くくっと笑っている零司さんを見上げた。
整った顔立ちで、瞳が切れ上がっている分、冷淡そうな印象を受けてしまいそ
うになるけれども、零司さんは意外に表情が豊かで冷たい雰囲気が表面に出て
こない。
「なに?」
「……なんでもないです。ライブバーがある最寄り駅まであとどれぐらいなん
ですか?」
「まだまだだよ、途中で乗り換えもするし。疲れたか?」
「あ、いえ、疲れたとかではないので、大丈夫ですよ」
「好きな店なんだけど、ちょっと遠いのが玉にキズなんだよな」
そう言って彼は苦笑いをした。
「ええと、その、今日はライブバーで何をするのが目的なんですか?」
「何かするってわけじゃねぇよ」
「……そうなんですか?」
「行けば判る」
零司さんはフッと笑った。
「何、我慢出来なくなっちゃってるとか?」
「が、我慢、とかっ」
思わず赤くなる私を、彼はやっぱり面白いものを見るような感じで見てくる。
「……出来なく、させてるのは、零司さんなんですからね」
「へぇ? 欲しいの?」
何が? とはさすがに聞き返せず、私は更に赤くなって俯くしかなかった。
「花澄は可愛いねぇ」
くくっと彼は笑いながら言う。
「あまり、電車の中でからかわないで下さい」
そうでなくても零司さんは人目をひくのに。
「からかってないぜ? 可愛いと思うのは本心なんだし」
「あ、の……ですね。嬉しいんですけど、公共の場なので恥ずかしいですよ?」
「おまえが恥ずかしがっている顔を見るのも、俺は楽しいけどね」
「ほんっとに、いじめっ子ですよね」
「誰かさんが苛めて下さいって言わんばかりの表情を向けてくるのがいけない
んだと思うね。俺は」
「とことん自由な人ですね……零司さんって」
「そうでもないぜ」
「いいえ、そうです」
彼は笑って、それから顔を上げた。
「ああ、次の駅で乗り換えだから」
「あ、はい」





電車を乗り継ぎ30分。
やや都心からは離れた所に、目的地のライブバーはあった。




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rit.〜りたるだんど〜の零司視点の物語

 

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