「さて、どっか適当な所で泊まっていくか」 「え?? 泊まるって」 「家まで帰るの面倒だし、でも金曜の晩だからなぁ」 零司さんが見詰める先にはホテルが数件立ち並んでいた。 「とりあえず、一番大きいところを覗いてみるか」 そんな事を言いながら、彼はすたすたと歩いていってしまう。 「れ、零司さん」 彼の後を追うと、シティホテルのような外観ではあるけれど、そこはラブホテ ルのようで入ってすぐの所には、部屋が写っているパネルが置いてあった。 「どこでも良い?」 一応こちらをちらりと見てから零司さんが言う。 「あ、はい」 「じゃあ、一番広そうなココにするか」 ****** 零司さんとホテルに入るのはこれで二度目。 落ち着かない感じで部屋を見渡していると彼が笑った。 「もうちょっと、奇抜な感じのホテルが良かったか?」 「奇抜……とか、判らないですけど」 「部屋が鏡張りのトコとかさ、色々あるだろ」 「……普通の所がいいです」 普通っぽいところであっても、ここで色んな人達がセックスをしてたりするん だろうなと考えただけでも胸が高まった。 「結局、今日の用事っていうのは……」 「ああ、ギターを引き取りにくるのが目的だったよ」 「ヤイリのギターだから、高かったんじゃないですか?」 「値段なんてどうだっていいんだよ、おまえが気に入れば」 「どうでもよくはないですよ、私は技術があるわけじゃないんですから」 「技術があろうがなかろうがいい音を出すギターの方が弾いてて楽しいだろう?」 「……それは……そうですけど」 「俺も、マスターが探してきたギターの事が気になっていたし」 「探してきた?」 「ああ、前にそのギターを俺にどうかって勧められた事があったんだよ」 ギターが入ったハードケースを指差しながら零司さんは言った。 「え、あ……そうだったんですか」 「その時は、断ったんだけどな」 「どうしてですか?」 「俺には必要がないものだったからだよ」 「……必要ない?」 「ギターはあまり、弾かないからな」 「それは、その……プロを諦めたから……ですか」 「うーん……」 彼はジャケットを脱いで近くのソファーに置くと、ベッドに寝転んだ。 「まぁ、そうなのかな」 「勿体無いです」 零司さんが指で招く仕種をしたから、私は彼の傍に寄った。 「歌も、ギターも上手なのに」 「おまえが気に入ったのなら、花澄の為だけになら歌ってやると言っただろ?」 彼は笑ってそう言う。 「……ライブバーに行く前は、歌わないって言っていたのに、どういう心境の 変化ですか?」 「おまえが他の男に目移りしないように、俺の手持ちである数少ないカードを 切ってるってだけの話だ」 「え?」 「誰にもとられたくねぇんだよ」 手をひかれ、その胸に招き寄せられる。 「誰にもって……」 「……俺は心底、おまえに惚れてるんだよ」 耳元で低く囁かれ、甘い声音のそれは私の身体を痺れさせた。 「零司さんが何もしなくても、私は貴方が好きです」 「その言葉、どう証明してくれる?」 「……証明って……言われても」 「だよな」 くくっと彼は笑ってから、唇を重ねてきた。 柔らかな零司さんの唇。 ただ触れてるだけでも心も身体も高まってしまう。 欲しい気持ちはずっと抱えてた。 セックスだけがしたいわけじゃないけれど、それでも求めずにはいられない。 「……少しは、我慢、とかしたほうがいいんでしょうか」 「我慢って?」 「身体だけ、と思われたくないんです」 「ふーん、でも我慢なんて出来るの? おまえが」 小さく彼は笑ってから、私のスカートの中に手を滑り込ませ臀部を揉むように して触ってくる。 「やっ……」 「出来るんだったら、してみれば? って思うけど」 「……い、意地悪、です」 「出来もしない事を言うからだ」 確かに、出来ない事ではあった。 彼の身体を前にして何もせずになんていられない。 そんなにしたがりの性質ではなかった筈だったのだけれども、彼の前では以前 がどうだったかなんて全てが無に等しい。 零司さんの体温を僅かに感じるだけで、触れたい衝動に駆られる。 「零司さん……」 「おまえのねだるような甘えた声って、ぞくっとする」 ――――彼の切れ長の瞳が熱をもったような光で輝き始めていた。
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rit.〜りたるだんど〜の零司視点の物語