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rit.2〜りたるだんど〜 STAGE.28



「す、すみません、泣くとか……そんなつもり、なかったのに」
「何が嫌だった? 何が不愉快だった? 言ってよ花澄」
「嫌とか、不愉快とか、そんなの全然ないです」
「じゃあ何?」
首筋を撫でていた彼の掌が私の頬を撫でる。
優しい手。
失いたくないと思うから余計に涙が溢れた。

「不愉快にさせているのは私の方じゃないかと思えて」
「誰が不愉快になるって?」
「零司さんがです」
「何に対して?」
「私との生活です」
「一緒に住みたいと望んだのは俺だよ、無理強いしてあの家に来てもらったの
に、不愉快だと思う筈がないだろ」
「だ、だけど……零司さんはもっとプライベート重視の人なんじゃないかって
思ったんです」
「プライベート重視ってどういう意味だよ」
彼が笑いながら言う。
「だって、今の生活は、四六時中一緒にいるじゃないですか」
「そうでもない、会社にいるときは別々だ」
「や、それは、そうなんですけど、家にいるときはずっと顔をあわせているじ
ゃないですか」
「何だよ、一緒にいたらまずいわけ?」
「そ、そうじゃなくてですね」
「会社にいるときは別々に過ごしているんだ、家にいるときぐらいずっと一緒
にいるのを許してくれてもいいんじゃねぇの?」
「え? あ、は、はい、それはそうですけど」
許すとか、許さないとか、一瞬なんの話をしていたのか判らなくなってしまう。
「離れているとか、そんなのは無理なんだよ。おまえが目の前にいないと、出
来ればずっと……抱いていないと気がすまないくらいなんだから」
「……あ、の」
「俺に我慢をさせるなと、いつも言っている」
「それは……はい」
「うん、で? 何」
「え? あの……あ、だから……家にいるときは、ずっと一緒に」
「いないとダメだって言ってんの」
「は、はい」
「これから先、どんな豪邸に住もうがそれは変わらないから覚えておけよ」
「……零司さん」
彼の言葉が嬉しくて、先程とは違う意味合いの涙が溢れてきてしまう。
「……私、家にひとりで居たくないんです」
「……ん?」
「零司さんが家にいるときは一緒に過ごしたいんです、別々は嫌なんです」
「させねぇって言ってる。ベッドルームがどんだけあっても、おまえが寝る場
所は俺の隣だ」
「はい」
「……だから、部屋を変わりたくないって言うのか? 部屋が沢山あれば別々
に過ごす事になると思うから」
「そうです……それは、前から考えていた事なんですが、今日零司さんがお兄
さん達に素っ気無い態度してたから、余計思ってしまって」
私が言うと、彼は驚いたような顔をした。
「素っ気無い? そうか?」
「……お兄さんもですけど」
「まぁ、言われるとそうかもしれねぇけど」
零司さんは少しだけ笑った。
「母親とも会わねぇしって?」
私が敢えて聞かなかった事を彼は言った。
「んー、それでおまえに俺が冷たいヤツだって思われるんだったら、俺として
はどうしようかね? って感じなんだけど」
「つ、冷たいとかっていうんじゃなくて、その……うちはわりと家族が仲が良
いので、環境が違うのかなって思ったんです」
「まぁ、おまえの家とは環境は違うだろうけどな」
「それに……すごい……お金持ちみたいですし」
「ああ“すごいお金持ちみたい”じゃなくて、超金持ちだからうち」
「う……はい、そ、それが……その」
「うん?」
「……住む世界が、違うのかもしれないとも……少し、思いました」
「へぇ? で、別れたくなった? 育ってきた環境が違う人間とは価値観が合
わないし、合わせるのも面倒だって?」
零司さんは、ふっと笑ってそんな事を言った。
「わ、わかれ――――とか」
息が詰まった。
喉に何か柔らかいものを押し込まれたみたいに息苦しくなって言葉が出ない。
呼吸をしようと唾を飲み込もうとしても、それもままならない。
意識が朦朧とする中で突然、強い力で引き寄せられ、抱き締められた。
「だけど、おまえがどんな風に考えようが、俺は離さない」
「……」
「まぁ、おまえが別れたがってないってのも判ってるけど」
くくっと耳元で彼が笑った。
「い、いじ……わるです。凄い、凄い意地悪ですっ! そういうの、言わない
で下さい、私がどんなに怯えるか知ってて楽しむのは止めて下さい」
「結果的に楽しんでいるように見えるのかもしれないけど、こっちだって必死
なんだぜ、おまえの本心を探るのに」
低い声で囁くように彼が言う。
耳に触れてくる吐息にぞくりとし、身体が震えた。
「もし、おまえが本当に別れたいなんて言い出したら、俺は次の手をうってい
かないと駄目だし?」
「……そんなの、言わないです」
「ああ、是非そうしてくれ」
ふっと彼が笑った。
「これでも……卑怯者にはなりたくないと思っているんで」
「え?」
「……こっちの話」
そう言う彼に耳たぶに軽くキスをされた。
「おまえには俺の全部を知って欲しい」
囁いてくる零司さんの声は優しそうでもあり、切実そうにも聞こえた。






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rit.〜りたるだんど〜の零司視点の物語

 

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