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rit.2〜りたるだんど〜 STAGE.29


「知りたいとは、思っていますよ?」
私の言葉に彼は笑った。
「ちょっとひいてるくせに?」
「ひ、ひいてるっていうか……誰だって、驚くと思います。不安にだって……
なりますよ」
「不安? 何に対して」
「だから……その、お金持ち過ぎるから」
「んー、そこって不安に思うところなわけ? うわぁ、玉の輿って思わないの?」
「え?」
「あ、今のナシ。聞かなかった事にして」
「え??」
「相手が金持ってるのをなんで不安に思う? 逆なら判るけどさ」
「あ、はい……なんていうか……それがあまりにも極端だと」
「うん?」
「……いつか、離れ離れにさせられちゃうんじゃないかとか、思えて」
「例えば?」
「えっ……と、家柄の良い方との縁談があるとか……」
「そんなんねぇよ」
「今は、なくても……」
思わず、ぐずぐずと言ってしまい、零司さんはそれに呆れたのか大きな溜息を
ついた。
「ご、ごめん……なさい」
「いや、そうじゃなくて」
彼はまた息を吐いて、組んだ脚の上で頬杖をついた。
数十秒の沈黙でも重たくて泣き出しそうになってしまう。
「ごめんなさい、もう言わないです」
「違う、そういうんじゃない」
珍しく、彼が迷い躊躇うような表情をしているから余計に不安になった。
「私、あの……」
「……も、黙って」
零司さんの唇が、私の唇に重なり口を塞ぐ。
暫く重ね合わせたあと、ゆっくりと彼は身体を離した。
「おまえの事は絶対に離さない、誰に何を言われてもそれは変わらない」
「は、はい」
「だから、そういう面で不安になる必要はなにひとつないよ」
「……はい」
「俺は我慢とか出来ねぇ性格だし、やりたくない事はやりたくねぇってはっき
り言うからさ、何不自由なく育ってきたようなお嬢さんとは合わないんだよ」
「……そう、ですか?」
「最初から色んなものに護られてる女には興味がないし、何より面倒」
彼は腕を組んでから、ふっと笑った。
「いいトコのお嬢さんってのは、母親を連想するから余計興味の対象外になる
のかもな」
「……零司さんは、その……お母さんが嫌いなんですか?」
「嫌いじゃねぇよ、興味がないだけで。だから兄貴がどうしても母親に会えっ
てあそこで言ってたら、ふつーに会いに行ってたし? 機会があればって言っ
ただろ?」
「そうですけど」
「別に会いたくねぇとか思ってないんだよ、だけどその代わりに会いたいとも
思ってないってだけで」
「……理解に難しいですね、それって」
「俺も説明難しいな、もともと母親とは接触少なかったし、肉親って言っても
他人みたいなものだからな」
「え?」
「あの人、子育てとか全部他人任せだったし。ベビーシッターっての? 俺も
兄貴もそういう人に育てられてるしさ」
「え? あ、そうなんですか」
「金持ちは、金使って他人を使うのがお得意だからな」
零司さんはそう言って笑った。
「それで、そういう人に興味を持てと言われてもねぇ」
「……それは……そうかもしれないですけど」
「ムリムリ、ああいう系統の女相手じゃ、勃つもんも勃たねぇし」
「え? え??」
「実際言った事もあるしな、親父が紹介してきた女に」
くくっと彼は笑った。
「あなた相手じゃ勃たないから一生セックスしないですけど、それでも付き合
いたいですかってね。後で、すっげー親父に怒られたけど。もっと言い方考え
ろって」
「零司さんって……本当、自由な人ですね」
「俺がそれ言ったの一回だけじゃねぇしな」
「え?」
「成田の次男だっていうんで目をつけられてた時期があったからな。その度に
同じ事を言って、親父に怒られての繰り返し」

『零司が世話になっている。コレは我が強いところがあるが大目にみてやって
欲しい』

彼のお父さんの台詞が思い出されて、妙に納得してしまった。

「普通の女と付き合えば、捨てられるし」
「……前にも、そんな事言ってましたね」
「まぁ、そんな俺がおまえ以外と上手くいくわけないだろって話だよ」
「上手く……いってますか?」
「いってねぇって思ってんの?」
視線をこちらに僅かに向けて彼が言う。
「い、いえ……」
「……俺は」
言いかけて、彼は言葉を止めた。
また小さく息を吐く。
「これから先、一年とか二年とか、そんな単位じゃなくて、もうずっとおまえ
と一緒にいたいんだよ」
「はい、それは、私もです」
「そうだろうな」
ふっと彼は笑った。
「だからおまえを親父や兄貴に会わせたわけで、言っておくけどこんなの初め
てなんだからな」
「え?」
「自分の家族に会わせたのも、実家の事を話すのも、だ」
「そうなんですか?」
「ひかれるとは思ってなかったけどな。すげぇ計算外」
彼は溜息をついてから、小さく笑った。



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