****** 「家なら、自由にさせてくれるんだろうな?」 自宅に戻ると早々に彼は私をソファに座らせ、背もたれに手をついた。 「で、でも、今日は……」 「“でも”だって? また拒否すんの」 「昼間も、してますし」 「だから何?」 「昨日も……あれだけ、してて……さすがにしすぎじゃないかって思うんです」 「何を基準にヤりすぎって言ってんの? 前の男?」 「そ、そうじゃなくて」 「もう俺に飽きたの」 「飽きたりしてないです、でも、こんなにしちゃって大丈夫なのかなって」 「大丈夫ってどういう意味?」 「身体がおかしくならないか……」 「なれば?」 零司さんは、ふっと笑って私に口付けてくる。 柔らかなその唇の感触は、足掻いてみたところで私を酔わせていく。 ましてや、何かストッパーとなるべき要因が何もない今となってはリアルな感 触に気持ちが昂ぶってしまう。 ――――本当に、昨日からずっと彼に抱かれ続けているから、こんな風に溺れ る自分にも、そして身体の反応も怖い気がした。 なにもかもが、際限ないような感じがして。 「嫌だと言うのは口だけか」 くくっと彼は笑う。 確かに私は口では拒んでも、身体で彼を押しのけようとしたりしなかった。 革張りのソファがふたり分の体重に僅かに軋む。 ちら、と上目遣いで零司さんを見ると、彼は小さく笑った。 いつもと同じように笑っている筈なのに、こうした雰囲気になるとその笑い方 さえも違って見えてしまう。 誘うような微笑み。 そして私は易々とそれに誘われる。 重なり合う唇、絡め取られるような彼の舌の動き。どれも私を酔わせるものだ った。 腰を引き寄せられ、開かされた脚の間に零司さんがいる。 まだ身体は交わっていないというのに、こんな体勢でさえもぞくりとして官能 を刺激させられた。 「本当に欲しくないの? 俺が」 意地悪く彼が言う。 私は必死になって首を振った。 「言わなきゃ判らないよ……花澄」 耳元で囁くように低く言われれば、尚更、身体が出来上がっていくような気が した。 眩暈がして意識が保てなくなっていく。 「欲しい……です」 「じゃあなんで欲しくないなんて言うんだ」 唇に彼の指先が当たる。 顎や頬をくすぐってくるその指に私は唇と舌を滑らせた。 「恋人同士なんだし、別に何回やろうが一日中やりまくろうが、誰に咎められ るでもないだろ?」 ふっ、と彼は小さく笑った。 「だ……って、こんな風にしてたら、私……本当にずっとしていたくなってし まうかもしれないです」 「それは望むところだな」 彼は他人事のようにそう言って笑う。 「……意地悪です」 「何が意地悪? コッチはもうとっくにそうなってるっていうのに?」 カットソーの中に手が滑り込んできて、彼の指が素肌を撫でていく。 「いつまで自分だけ安全な場所に居続ける気でいるんだ?」 「……え?」 「俺だけ溺れさせておいて、自分は黙ってそれを見てるの?」 「零司さんが、私に……溺れているんですか?」 彼は笑って唇を重ねてくる。 服の中では零司さんの手が私の身体をまさぐっていて、彼の手の温度だけでも 熔かされそうだった。 心も、そして身体も――――。 「零司……さん」 「……同じ場所まで、堕ちてくればいいさ」 「あ、っぁ……」 彼の唇が鎖骨の上を滑っていく。 柔らかく温かな感触はどこまでも優しいのに、その先にあるのは凶器のような 快楽で。 「俺が好き? 愛してる?」 「好き、ですっ」 「愛してるか?」 「……愛しています」 切れ長の麗しい彼の瞳が、甘く潤んで見える。 熱を帯びたような輝きをそこに見つけると、自分がひどく求められているよう な気がして堪らない気持ちにさせられた。 彼の首筋から指を滑らせ、シャツからのぞく素肌に触れようとする。触れられ たいと思うのと同じぐらい彼に触れたい。 零司さんは小さく笑い、シャツの釦を次々と外していき私が触れられる面積を 増やしてくれた。 滑らかで柔らかい肌。 だけどただ柔らかいだけではなく、引き締まって硬い筋肉質な身体つき。 男の人の身体を見たり触れたりするだけでこんな風に自分が興奮してしまうの は彼が初めてだった。 「……私だって、安全な場所にいるわけじゃ……ないです。私を先に堕とした のは零司さんの方ですよ、忘れたのですか?」 女性のようにふっくらとした胸は彼にはないけれど、筋肉で僅かに盛り上がっ ている胸板は美しいと思えた。 零司さんは顔もそうだったけれど、どのパーツも美しく見るものを魅了する。 この美しい身体にこれから支配されるのかと考えたら、それだけでどうにかな ってしまいそうだった。 日に何度彼に抱かれても、飽きるなんて事は決してない。 その逆だと自分で判っているから自制したいと思うのに、零司さんは求め、煽 ってくる。 「その主観は間違えているな。どちらが先かって言ったらそれはやっぱり俺の 方だから」 甘く溜息をついてから彼がそう言った。 「……くすぐったい」 腹筋の辺りから脇腹へと指を滑らせると零司さんが笑う。 「自由にさせてやりたいけど、どうせなら……こっちも刺激して」 彼の素肌に触れていない方の手を引き寄せられ、ジーンズの上から熱の塊に触 れさせられた。
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rit.〜りたるだんど〜の零司視点の物語