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rit.2〜りたるだんど〜 STAGE.40


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もしかしたらという期待に胸が膨らんだ。

急いで買い物を済ませ、夕飯の準備にとりかかる。
零司さんが好みそうなおかずを一品ずつ作り上げていくたびに、心の中が安定
していくような気がした。

今日、零司さんと会えなくても大丈夫。
“繋がっている”
そんな気持ちにさせられたから。

それが限りなく自己満足ではあっても、テーブルに料理を並べたら主のいない
椅子には零司さんが座って微笑んでくれているように思えたから、大丈夫だ。

とりあえず、料理のお皿にはラップをかけてゆっくりと時間をかけてお風呂に
入る事にした。


(……あのボディーガードのお兄さんは、もしかしていつも傍に居たりするの
かな)

私の傍にという意味ではなく、普段は零司さんの傍に。
それがあっても不思議ではないぐらい彼の実家はお金持ちみたいだし、実際彼
も“超がつくほどのお金持ち”と言っていた。


本当に、私はこの先も零司さんの傍にいられるのかな。


折角浮上しかけたのにまた気持ちが落ち込みそうになり、慌てて首を振った。
気持ちを切り替えるために、お風呂に薔薇の香りの入浴剤を入れてみたりする。

お風呂の中でテレビを見たりしたので、バスルームから私が出たのは2時間後
だった。


バスルームからキッチンに直行し、冷蔵庫を開ける。
中には零司さんが普段飲んでいるビールや、私が飲んでいる葡萄や桃のお酒が
入っていた。
これらのものは冷蔵庫に常備されているもの。

……私が好む事を知っていたから、零司さんは買っておいてくれていた。

今でも、冷蔵庫に入っているこのアルコールを見ると、胸の中がくすぐったい
ような感じにさせられた。
彼の行動は決して判りやすくはなく、ストレートである筈なのにどこか屈折し
ているから私のように鈍い人間には伝わりにくい部分が多々あった。
だけど最近は思った事は思ったままに言ってくれるから彼に対しての不安を感
じる事は少なくなった。
(新たな不安は生まれてるけど……)
葡萄のお酒を手に取り、リビングに向かう。
ラップのかけられた料理を見ながら、そろそろ夕飯にしようかなと考えた時、
ドアの開く気配がして急いで玄関へと向かった。


「ただいま」
「零司さん!」

待ちわびていた部屋の主が帰ってきて、私は彼に抱きついた。
「おかえりなさい……」
「うん」
抱き締め返してくれる腕が心地良く、安堵の溜息が漏れる。
「仁(じん)から家にちゃんと帰った事は聞いてたけど、電話に出ないから心
配した」
「え? 電話ですか?」
「こっちの空港についてから、おまえに電話もしたしメールもしたんだけどね」
「……あ、すみません、お風呂に……」
「そのようだな。乾かしきれてない部分があるね」
零司さんは私の髪を指で梳きながら笑った。
「全然メールできなくて、ごめんな」
「いえ……お仕事で忙しいのは判ってましたから」
「不安にもさせたと思うし、怖い思いもさせた」
「大丈夫でしたよ」
「それは結果論だ」
「でも、そうなるように零司さんはしてくれてました」
「……冷たいと、思ったか?」
零司さんは少し屈んで、私を覗き込むようにして見つめた。
「冷たい?」
「普通にしていればいいって、言った事だよ」
「ああ、もっと色々何か言ってくるかなとは思いましたが、冷たいとは思わな
かったですよ」
「色々言えばおまえの不安を煽ると思った。俺が傍にいないのに闇雲に不安を
煽りたくなかったんだ」
「そうだったんですね」
私が微笑むと、彼もほっとするようにして微笑んだ。
「……あのボディーガードの方は仁さんって仰るんですか?」
「何、興味を持ったのか」
即座に目を細め、不愉快を絵に描いたような表情を彼はした。
「いえ、興味とかはないですよ。私はあの人の顔すら見てませんし」
「俺がそうしろと言った」
「え??」
「仁は腕も良いけど顔も良いからな」
「あ……そうなんですね」
「一番信頼しているやつだから、おまえにつけたんだけど……見た目がな」
私は思わず笑ってしまう。
「零司さんにそこまで言わせる彼の顔に、逆に興味を持ってしまいますよ?」
「駄目だ」
彼は私をぎゅっと抱き締める。
「女は強い男や顔の良い男に弱いからな」
「零司さんは鏡をあまり見ないんですか?」
彼ほど美しい人はそうは居ないと思うのに。

……ああ、私は彼のこういう部分も好きなんだ。
むやみやたらのプライドを見せつけて来ない所。
類まれな美しさを持ち合わせているのにそれを誇示せず押し付けて来ない所。
だから、私は息苦しいと思わず彼の傍にいられる。
「私は、零司さんだけが好きなんです」
彼は私の言葉に微笑んだ。
その溶けるような笑顔に心が鷲掴みにされる。
そして、落とされてきた熱のこもった口付けにも。

何度思わされたか判らない感情を、私は今日も思わされる。


――――彼がいれば、もう他には何も要らないのだと……。



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rit.〜りたるだんど〜の零司視点の物語

執着する愛のひとつのカタチ。

 

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