****** 加賀君の時も、失いたくないという気持ちはあった。 突然別れを切り出された時だってそうだった。 だけど、あの時の私は恋を護る事に必死にならなかった。 仕方ない、で諦めたつもりもなかったけれど、必死になって離れたくないと訴 える事もしなかった。 その事に関して、今更後悔はしていない。 怖いのは、今護りたいと思っている恋を失う事の方だった。 電車の中で、言葉を交わす事なく部屋に辿り着く。 先に部屋に入った彼の背中に声をかける。 「零司さん、あの」 零司さんが振り返ったと思った瞬間、私の身体は近くの壁に押し付けられた。 「っ……つ」 「おまえは、俺のものだ」 身体が押さえつけられた状態のままで、キスをされた。 彼の熱が、唇に伝わってくる。 激しく吸われたり、或いは舌を入れられたりするから言葉が発せられなくなる。 ――――私は、零司さんのものだ。 ずっとずっと、貴方のものでいつづけるから、だからどうかこのままで。 先の事なんて誰にも判らない、それでも、約束しなくていいから、許して欲しい。 私が貴方の傍に居る事を。 「……ぅ……っん!」 スカートの中に入り込んできた彼の指が、容赦なく私の身体への入口をまさぐる。 いつになく乱暴な指の動きではあっても、それが零司さんのものであると思う と、身体は高められ、感覚は鋭敏になっていく。 「あいつに、何言われてた? あの男は一体何なんだ」 「か、彼……は、前の彼で……また、一緒に暮らそうって、言われました」 加賀君に言われたままの事を零司さんに言うと、彼が眉根を寄せた。 「“また”ってどういう事? あの男と一緒に住んでいたのか?」 敏感な場所を、下着の上から弄っていたその指が中に入り込んできて、思わず 声が漏れてしまった。 「っ、は、はい……」 ずるりと彼の長い指が、私の体内に埋め込まれる。 出来上がっていたその内部は、やすやすと零司さんの指を受け入れた。 「ん、んっ」 「……あの男にも……」 彼は何かを言いかけて、強く唇を結んだ。 「れ、零司……さん??」 次の瞬間、真っ白いラグの上に押し倒され下着は身体からはぎとられた。 乱暴な様子に恐る恐る彼に瞳を向けると射るような視線とぶつかった。 ふいに思い出される事があった。 本気ではなかったにしても彼が私に、西木さんにも抱かれたいのかと言った出 来事が。 だから、零司さんは今度も少なからずそんな風に考えているのかと思えた。 「わ、私は、あの人にまた抱かれたいとか、そんな風に思ったりとかしてませ ん!」 零司さんだけだというつもりで言ったのに、彼の眉間の皺が更に深いものにな る。 「……おまえが……“また”とか言うな、判りきっている事でも口に出して言 われたら、のみ込めない感情とか、割り切れない気持ちとか……俺にだってあ るんだよ」 「え?? あ、っぅ」 身体に衝撃が走る。 体内に、大きな存在感。 私の中を埋め尽くしているそれが零司さんだと思うと、どんなに乱暴にされて も快感がわき上がって来てしまう。 「……おまえが言ってくれれば良かったのに」 耳元で、小さな言葉が囁かれた。 言うって何を?? 彼が私に望む言葉があるというのなら、私はそれを迷わず言うのに、それを聞 いても零司さんは苦しそうな表情を浮かべるだけで教えてはくれない。 愛の言葉を投げかけてみても、彼は満足したような表情を浮かべないから、そ ういうものではないのかと思え、想像力や洞察力に乏しい私は八方塞がりにな ってしまう。 「ん、……あ、れ、零司……さん」 私は……別れの言葉以外なら、どんな事だって従える。 苦しい感覚に身悶えながら彼を受け入れ続ける。 苦しいけれど、それは決して私に苦痛ばかりを与えてくるものではなくその苦 しさの裏側にある快感に翻弄された。 私がもっと気持ちを言葉にして上手に伝えられる人間だったら……。 そんな風に思えた。 きつく抱き締められ、一瞬呼吸が出来なくなるような感覚になる。 「く……っ、ふ」 「……花澄、どうしたら、おまえは俺だけのものになるんだよ」 「私は、零司さんだけのものです、信じて下さい」 「……信じる?」 身体を深いところまで押し付けられて、高い声が出てしまう。 奥に感じているものがじわじわと強くなり、それが私の全部を支配していこう としていた。 甘い痛みに身体が震えた。 「んんっ」 「……花澄」 目を開けて彼を見詰めると、零司さんは辛そうな瞳をした。 そんな彼を見るのは初めてだった。 酷薄そうにすっきりと切れ上がった瞳はいつも冷静な色で輝いているのに、今 は違った。 「俺はおまえが好きなんだ。ずっと、想ってた」 そう言うと、彼はまた私を強く抱き締めた。 「誰にも渡せない」 身体に与えられていた痺れるような快感とは別の甘い痺れが心を覆う。 彼の言葉は私を強く酔わせた。 「……離れられるとか、思うなよ」 ぽつり、と零司さんが言った。 先ほどまでの熱っぽさが消えた声の色。 背筋がぞくりとしたものの、恐怖は感じない。 私を手放したくないと思って欲しいと、考える気持ちが強かったから。 「零司、さん」 「一生縛り続けてやる」 激しい抽送と、私が心から望む言葉に、あっという間に身体が高いところへと のぼりつめた。 私が頂点を迎えた後でも容赦がないのはいつものままだった。 「あ、あっ……」 「……花澄、もっと」 私は零司さんを愛している。 彼を酔わせるような上手い言葉は言えないけれども、それが伝えたい想いだっ たから、私は何度も彼に言った。 「俺も、愛している……俺にはおまえだけだ」 「ずっと、傍に居させて下さい」 「本気で……ずっとって思ってるのか?」 「本気です」 「……じゃあ、おまえ……」 聞き取れないくらいの小さな声で彼が何かを言った。 聞き返そうとした瞬間、激しい抽送に翻弄される。 「あっ、ぅ……ん……ぁ、や……っ」 抜き差しされる彼の身体の一部分に激しく意識が乱された。 一度達してしまっているから余計に、二度目の波は大きくうねり私を飲み込も うとしていた。 彼が身体を動かすたびに、ぞくりと身体が甘い刺激に反応する。 何かを言おうとしても、息をするだけで精一杯だった。 「もっと、イイって言え。良いんだろ?」 「ん、ふ……れい……じ、さん……あっ……い、いい……です」 「おまえの中……本当、気持ち良いな……俺のに絡みついてくるように動いて るの、自分で判ってる?」 首を振ると彼は薄く笑った。 「他の男にも、こんな風に反応してたの? あの男にも?」 また首を振る。 あの男、が誰を指しているのかはすぐに判った。 加賀君の事だ。 「嘘をつくなよ、こんな良い反応するんだから、他の男にだってしてたんだろ?」 「ちが……零司さんだから……」 「俺だから、何」 「零司さんが、するから……私、こんな風になるんです」 「ふぅん」 「……そう何度も言ってるつもりです」 「コッチも俺が聞いたら何度でも答えろと言っているよな?」 「じゃ……ぁ、言います」 「何を?」 先ほどまで切羽詰ったような色をしていた切れ長の瞳が甘い色を滲ませる。 「私、こんな……何回も、いかされたりするの……今までなかったです」 「へえ?」 「零司さん……のが、気持ち良いから……」 恥ずかしさに顔を背けると彼が笑った。 「身体だけか?」 「ぜ、んぶ……です」 零司さんの匂いや声やその吐息でさえも、それが彼のものだと考えたら私は高 まってしまう。 ただ、好きだから、だけでは説明出来ない身体の反応がそこにはある。 私にとって彼は全てにおいて特別な存在であると思えた。 「零司さんじゃなきゃ嫌……西木さんだってそうだし、加賀君には腕に触られ るのも嫌だった、触れられたくない。身体以上に心だって……」 私の心に触れていいのは零司さんだけだ。 「本当に、おまえには俺だけ?」 薄く笑って彼が言う。 頷いた瞬間に、また再開される抽送。 呼び覚まされる熱情に私は悲鳴を上げた。 「ああっ……も、もう駄目ですっ」 「我慢して、俺だって……出したいよ?」 「ぁ、はっ……ぅ」 「花澄……」 身体の奥が熱くなる。 それは一度目のものとは違う、より深く強い感覚に意識が保てなくなっていく。 「駄目、とか言わないで、もっとしてって言いなよ、もっと俺にされたいって、 気持ち良くしてってねだれよ」 「ぅ……感覚、つよ……すぎる……ん、です」 「されたくないのか?」 「おかしく、なっちゃう……から」 「なれば?」 私が一番強く感じる部分を探り当てた彼のその部分が激しく、そして執拗に私 を攻め立てた。 「んんぅっ」 「おかしくなって本当に俺以外には抱かれたくないと思う身体になればいい」 「ぁっ、ああ……っ」 彼以外に抱かれたくないのは、もう紛れもない真実なのに――――。 だけどそれは今は言葉にならなかった。 甘い身体の痺れが強くなり、もっとも大きな快感を得ようとし始めてしまう。 「あ、ンンっ……ぅ」 「辛いの? 気持ち良いの? どっち」 彼が小さく笑うのが気配で判った。 一度追いたいと思ってしまえば、辛いと思う感覚なんてないも同じだった。 「いい……の」 「おまえは本当に、可愛いな……何度抱いても足りないと思うぐらいに」 「ああっ……零司さん、す……きっ」 「……ああ」 「好き、すき、なの……」 「好きだよ」 興奮が混じったように囁かれる甘い声。 溶かされていくのは身体だけじゃなくて思考もだった。 何も考えられないと思うのに、あの部分に感じる硬さだけははっきりと判る。 何度も出し入れされ、いやらしい水音が耳に届いてくる。 「たっぷりと濡れてるのが判る? でも、凄く締めてきてて、イイよ……花澄」 彼の腰の揺らし方が小刻みになっていく。 先端部は内壁のもっとも感じる場所にあるから、私は……。 「あっ、ん……あああっ!!」 「っ……くっ」 私が高まると同時に、彼もその白濁色の欲望を吐き出した。
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rit.〜りたるだんど〜の零司視点の物語