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rit.2〜りたるだんど〜 STAGE.7


「私だって、零司さんが居てくれるなら、他に何も欲しいとは思いません」
「ふぅん?」
「……失いたくないんです」
「そう」
「だから、ずっと傍にいさせて下さい」
「いいけど」
「はい」
ほっとして私が笑うと、彼の手が優しく頬を撫でていく。
「でも傍にいて欲しいと強く望んでいるのは、俺の方だからな」
「……零司さん」
「昔も今も、思い焦がれる気持ちが強いのは俺の方だ」
「昔、ですか?」
「おまえが知らなかっただけで、俺はずっと花澄を好きだった」
見上げると、彼は僅かに目を細めた。
その表情がひどく魅惑的で、胸が痛くなる。
切ない痛みは甘さも混じっているから堪らない気持ちになってしまう。
「感情抜きの欲望でだけでおまえを抱いた事なんか、ただの一度もねぇよ」
「……え」
「最初から、そうだ」
「さ、最初……って」
「おまえが俺に“抱かれてみたい”とか言う前から俺は好きだったって言って
んの」
「え、だ、だって、そんな素振りすら見せていなかったじゃないですか」
「確かにな、見せてはいなかったけど、それでいきなり抱いてくれはねぇよな」
くくっと彼が笑うから、私の顔が熱くなった。
「だ、だって」
「だってなんだよ?」
「零司さんが、色っぽかったから……」
「俺のせいかよ」
「だけどあんな風に言ったのは初めてだったので色んな風に思われているだろ
なぁと後でだいぶ、苦しみました」
「へえ」
「……す、すみません、私……だいぶ、がっかりさせましたよね?」
「がっかりって?」
「なんか、もう……色々とです」
「別にがっかりはしてねぇよ」
「……でも」
彼が小さく笑った。
「本当におまえが、すっごいセックスが好きで寧ろ依存症ぐらいなもんであっ
てもそんなん別にどうでもいい話で、問題なのはその後なんだよ。俺に抱かれ
た後でも別の男に抱かれたりとか、そんなのは勘弁してくれって思うぐらいで
さ」
「私は零司さん以外とは出来ないです」
「だったら、良いんじゃねぇの? 最初がどうだったとかはさ。俺は口では色
んな風に言うけど、本気で言っているわけじゃないし」
零司さんの長い指が私の頬をくすぐるようにして撫でた。
温かな彼の指先が少し触れるだけでも、安心感にも似た感情が芽生えてくる。
だからずっと触れていて欲しいと思ってしまうのかな?
「おまえは俺の身体を気に入ってくれているみたいだし?」
「き、気に入るとか……また、そんな言い方……」
「違うの? 俺はおまえの身体にも夢中にされてるけど、やっぱり未だに一方
通行なのかな」
「い、意地悪……です。判っててそういう風に言うの」
「何を判っているって? 俺は何も判らねぇっての。おまえは俺に判らせるよ
うな事を言っているのか? その上で意地悪だとか言ってるわけ?」
「え、あ……あの」
「ね……ちゃんと言いなよ。おまえがどれだけ俺に夢中になっているのかって。
なってないなら……言いようがないと思うけど」
ふっと顔を上げてこちらを見てくる彼の瞳が、甘く滲んでいるように見えて、
心以上に身体が痺れてしまう。
「も……そういう顔をされただけで、私はどうにかなってしまいそうなんです
よ?」
そう言って彼の身体にしがみつくようにして抱きついた。
「そういうとか言われても判らないんだけどねぇ?」
くくっと彼は笑いながらもしっかりと私の身体を抱き締めてくれる。
「……俺の、顔が好き?」
「顔も、好きですよ」
「そう。おまえにとって価値のあるものなら良かったと思えるな」
「見惚れるぐらい……素敵だと思っていますよ」
「へえ」
「零司さんはそうは思わないんですか?」
「自分の顔を見惚れるぐらい好きって? そんなナルシストじゃねぇよ」
「そうですか? 私は……ずっと見ていたいぐらいですけど」
「俺は、おまえの顔をずっと見ていたいけどな」
「え? こ、こんな顔をですか?」
「すげぇ好きだっての」
「あ、え……っと」
「困ったような顔したり、照れたりしたりする顔が堪らなく可愛い。泣いた顔
はもっとだ。だから、泣かせたくなる」
「泣かされるのは、ちょっと嫌です」
「でも、可愛いから仕方ない」
彼が私の身体の上に覆いかぶさるようにして乗ってきた。
「泣かせたくなってきた」
「え? あ、あのっ」
「“もっと、して”とか言いながら、泣いてるおまえの顔が一番ぞくぞくする」
くくっと彼は意地悪そうに笑う。
「零司さんは本当、意地悪ですっ」
「今更だよな」
「さ、さっきしたばかりで、しかも、その」
「2回イってるからきついって?」
私が顔を赤らめると彼が笑った。
「……そうです」
「ふーん」
「も、もう少しだけ、その辺りの事は考慮して頂きたいんですけど」
「この俺に我慢しろと?」
「我慢っていうか……ちょっとだけ考えて欲しいんです」
「まぁ、考えるだけなら考えてやるけど」
「こっ行動も伴って下さい」
零司さんは切れ長の瞳を輝かせながらも、薄く細めて微笑んだ。
「今日のところは我慢してやるか」
彼はそう言って私の額に小さく口付けると、身体を退かした。
「あまりしつこくして嫌われても困るしな」
「……嫌うとかはないですけど」
自分の手を、彼の大きな手に重ね合わせ、繋いだ。
穏やかで優しい安心感が私を包む。
誰かに対して、こんな風に思うのは初めてだった。
ぶつけられるのは激しい感情であったりもするのに、相反するように穏やかな
気持ちも私に教えてくれる。

だからこそ、ずっとこのままでと強く望むのかもしれなかった。



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rit.〜りたるだんど〜の零司視点の物語

 

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