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rit. 〜りたるだんど3〜 STAGE.10

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きらきらと輝くダイヤのリング。
会社に行くときも外さないようにと零司さんが言ったのでそのままはめていくと、
総務に来た西木さんに気付かれた。
「ああ、いよいよ君の指に、指輪がはめられるようになったか」
殊更残念そうに言って彼は笑った。
「婚約指輪とか?」
「ええと……違うらしいです」
「それってダイヤだよね」
「そうですね」
「はぁ、なんか稼ぎの違いも見せつけられてる気がするな」
西木さんの収入も、零司さんの収入も私は知らなかったのでなんとも答えられ
なかった。
「あ、あの」
「うん?」
「この指輪は婚約指輪ではないんですけど……その」
「……結婚するの?」
私が言う前に西木さんはそう言って笑った。
「……はい」
「そうか、おめでとう」
「すみません……」
「謝る事はないよ、残念ではあるけど君が幸せになってくれるならそれで」
穏やかに笑う彼の表情は人柄の良さを表しているようだった。
「あの人、本当動き始めると早いんだな。ちょっと驚いた……でも、手放した
くないと思ってしまう気持ちは判るし……今日はやけ酒だな」
くくっと彼は笑った。
「……なんか、ごめんなさい」
「いいって、色々はっきりしたほうが、俺も諦めがつく」
合コンでもセッティングして貰おうかなぁと呟いて彼はまた笑った。
「お幸せに」



――――もしも。


タイミングが僅かでもずれていたら、私は西木さんと仲良くなっていただろう
か?
そんな事を少しだけ思った。



「なってたんじゃねぇの?」
零司さんに会社での出来事を話すと彼はそう言って笑った。
白いクロスがかけられたテーブルの上ではちいさなキャンドルが炎を揺らして
いる。
雰囲気のいいレストランで私達は食事をしていた。
「西木は女子社員からも人気が高いし、人柄も良いからな」
「ああ、そうだったんですね」
「花澄が入社してすぐから、あいつはおまえを気に入っていたんだけどねぇ」
「え? あ、そ……そうだったんですか?」
「飲み会の席であれだけおまえにべったりだったのに、気が付かなかったわけ?」
「ただ、仲良くしてくれているだけだと思ってました……けど」
「にぶいよな。そういうトコ」
「すみません……」
「性格的には俺より西木の方がおまえには合うのかも知れない」
私が顔を上げて零司さんを見ると、ワインを一口飲んでから彼は笑う。
「ま、そんなの知ったこっちゃねぇけど? 俺はおまえを誰にも渡す気ねぇし」
「……私は零司さんが良いんです」
「ああ」
「確かに、零司さんはひとくせもふたくせもあって、性格も良いとは言い切れ
ないですけど」
「おまえ、喧嘩売ってるの?」
ふっと彼は笑った。
「……そういう部分も含めて、私は零司さんが好きなんだと思うんです」
「へーえ」
「この人じゃないと駄目なんだって思ったのは、零司さんが初めてなんですよ」

それが運命だとかそういうものなのかどうかは判らない。
だけど“たったひとりの人”を激しく意識させられたのは彼が初めてだった。
今までの恋人だった人達にも、好きだとか愛しているだとかは思ってはいたけ
れど、それらの感情は零司さんに対して向けている感情とは大きく違うものだ
と思えた。

彼と離れては生きていけない。
零司さん相手には、そんな風にまで思わされてしまう。
たった数時間離れている事すら苦痛に思えるほど、恋しくて愛しくて堪らなく
て、私の全部が彼に支配されてしまっている気がして……だけどそれは不愉快
な事ではなく寧ろそうされている事の方が私の幸せの形であるような気もして
いた。
彼の存在で私を縛り付けて欲しい。
「俺じゃ駄目だっておまえが言い出しても俺は花澄を手放す事はないし」
零司さんは形の良い唇の端を少しだけ上げて薄く笑った。
「そんなの言わないですよ」
「ふぅん」
「……思わず言ってしまいたくなるような意地悪を、零司さんがしなければの
話ですけどね」
「こーんなに優しい男は他には居ないと思うけど?」
「優しい部分も確かにありますよ」
「やっぱり、おまえ、俺に喧嘩売ってるだろ」
くくっと笑う零司さんの切れ長の瞳は優しい色で瞬いていて、私は彼を愛しい
と想う気持ちを強くさせた。

激しい感情の中にあるふとした安らぎの瞬間。
そういう柔らかなものも彼は与えてくれるから、私は益々嵌っていくのかも知
れなかった。

――――彼という存在に。




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rit.〜りたるだんど〜の零司視点の物語

執着する愛のひとつのカタチ。



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