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rit. 〜りたるだんど3〜 STAGE.9

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俺は我慢を強いられる事が昔から苦手だった。
だから、我慢しなければいけない場面になりそうな時は自分でそれを我慢では
ないと暗示をかけていた。
我慢をしない為に諦めるという事も自衛の一種だった。

――――花澄の事は、自分が我慢する羽目になるのだろうという予感がしてい
た。
それ故にらしくなく、ぐずぐずと思い悩んでいた部分もあったのだと思えた。
欲しいものは、どんな事をしてでも欲しい。

だけど、それが物ではなく心だったりする場合は容易ではない。
花澄を好きだと思ったところで、彼女が俺を好きになってくれる可能性が高い
だなんて思ってはいなかった。

彼女と寝た後だって、いつか自分は諦めなければいけないのだろうかと思い続
けていた。
愛なんて形のないものに振り回されたくはなかったのに、気がつけば引き下が
れない所まで来ていて、諦めるという選択肢が俺の中には無くなっていた。
諦められないという感情。
それが寧ろ、愛ってものなのだろうか。


愛しているから諦められない。
優しくない感情だと判っているのに、それをずっと抱え続ける苦痛。

俺は、柊弥の事を考えていた。

あいつは初めて会った時から、すでに唯一人を愛していてその想いや執着の激
しさに当時の俺は呆れるばかりだった。
彼女を想う歌ばかりを作っていて、そのくせ当の本人には決して会おうとはし
ない意固地さが俺は不思議でならなかった。

執着しているのは、抱える想いに対してなのか、それとも愛する人になのか。
今もなお失いたくないと叫び続ける心は何処に向いているのだろうか?

「零司さん、どうかしましたか?」
物思いにふけっている俺を不思議に思ったのか、花澄が声をかけてくる。
「ああ、ちょっと考え事をしてた」
「……何か不都合な事でも?」
彼女は不安そうに俺を見つめてくる。
大丈夫だと俺が言っても、信用しきれないのだろうか。
だけど、彼女の不安そうな表情も愛情がある事の表れなのかと思うと抱き締め
たくなる。
「不都合な事は何もないから安心して、全然別の事を考えていたんだよ」
「別の事ですか?」
「その話は、まぁ、いいとして」
「……え?」
「そんなに不安? 結婚に反対されたらどうしようって考えちゃうの? 俺が
大丈夫だって言っているのに」
俺の言葉に、花澄は少しだけ表情を曇らせた。
「不安には思いますよ、色々と」
「そんなに不安になるんだったら、結婚するって事自体を白紙にする? その
方がいいか?」
「零司さんって、本当意地悪ですよね」
「ああ、おまえがそうしたいって言わないだろうなって思っているからな」
「意地悪です」
「だけど、花澄に大きく負担がかかるなら、本当にやめても構わないとも思っ
ているぜ」
「負担とかはないです、だけど不安に思う気持ちだって察して下さい」
「……ああ」
「結婚するのをやめるとか……言われる方が辛いです」
彼女の泣き出しそうな表情が、また堪らなく愛おしいと想う気持ちにさせられ
る。
俺が口でどんな風に言っても、やめるという選択肢が無い事に彼女は気が付か
ないのだろうか。
例えば花澄がやめたいと言い出しても、俺はやめるつもりなどさらさらない。
結局の所俺だって、花澄自身に執着しているのか、花澄を想う自分の恋情に執
着をしているのか判らなくなってくる。
他人をここまで強く想う気持ちが今までなかった分、護り続けたいと思ってし
まうのか。

――――いや、多分どちらもだ。

想う気持ちを護りたい、だけどその想う気持ちが生まれる源はやはり花澄自身
に他ならないのだから。

愛しい。
だから、失いたくないと心の根の部分が強く意識に働きかけている。

「手放さないから安心して。俺がそうだと言ったら絶対なんだよ」

小さく頷いてから微笑む彼女に、心の中で静かに揺れていた炎の勢いが激しく
なっていくような気がしていた。





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rit.〜りたるだんど〜の零司視点の物語

執着する愛のひとつのカタチ。



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