「悪かったな、嫌な話を聞かせてしまって」 零司さんの言葉に、私は微笑んでみせた。 「いいえ、お見合いとかそういうのがあるっていう話は聞いていたので……大 丈夫です」 テーブルに残されたコーヒーの入ったカップを眺める。 「零司さんは他人を煽るのが上手ですからね」 思わず笑ってしまう。 「煽ったってわけじゃないけどな。だけど、タイミングってやっぱり大事だと 思えるし?」 「柊弥さん……大丈夫でしょうか?」 「駄目ならそれはそれで」 「……零司さんって心配しているのかそうでないのか判らないですよね」 私が手に持っていたカップを、零司さんがひょいと奪うようにして取り上げテ ーブルに置いた。 「零司さん?」 彼を見上げようとした時、唇が重なり合った。 軽く触れ合うだけのキスをして、すぐに唇が離れそれで終わりなのかと思えば またその体温を私に教えてくる。 重なり合うだけのそれが段々深い物へと変化していく。 絡む舌の感触に乱される吐息。 手を伸ばして彼を抱き締めれば、彼もまた私を抱き締めてくる。 そっと零司さんを見上げると彼は濃艶に笑った。 誘われているとすぐに判る。 否、私が誘われたいと思っているだけかも知れない。 「おまえの事以外では、そんなに深入りしても仕方ないだろう」 首筋をそっと撫でてから零司さんは私の後頭部に手を回した。 「……柊弥の話は、もうお終い」 「はい……」 「俺の友人だろうがなんだろうが、やっぱりおまえが他の男の事に気を取られ るっていうのは面白くない」 そんな事を言う彼に私は思わず笑ってしまった。 「心の狭い男なんだよ、俺は」 薄く笑った後、彼はまた私にキスをしてくる。 居心地が良いと思う気持ち。 彼が私を束縛するような言葉は、私にはひどく甘い言葉に聞こえてしまう。 縛り付けられたい。 例えばそれが勘違いであったとしても、その方が愛されていると強く感じてし まうから。 「零司さんを愛しています」 私の言葉に彼は艶やかに微笑む。 「おまえには、もっともっと愛されたいと思ってしまう」 「愛していますよ?」 「欲求は際限ないんだよ」 だけど、それは私も同じだと思えた。 愛されていると判っても、次の瞬間にはもっと愛されたいと思ってしまう。 貪欲な自分に呆れてしまうぐらいに。 手を伸ばせば届く場所に彼がいても、もっと傍にいきたいと願ってしまう感情 は、どんな風に表現すればいいのか迷うぐらいだった。 「伝えきれてない想いとか……ありますよ」 「だったら全部教えろよ」 くくっと彼は笑い、私の腰を撫でた。 「あっ……」 「抱いていいだろ?」 「……はい」 沈むような暗い不安はない。 だけど、はっきりとしない不安はいつだって心の中に住処を作っていた。 彼と私が別々の人間である以上、多分それはずっと続いていくのだろうと思え た。 繋がり合う事で生まれる甘美な快楽を求めてやまない気持ちは確かにあるけれ ど、深く絡み合う事で生まれる安心感や明確に見える形での一体感を強く求め てしまう気持ちを否定する事なんて出来はしない。 何より、私は彼を独り占めしたいのだと思えた。 繋がっている時だけは零司さんの時間もその肉体も私だけのものだから。 彼が入っていると意識すると、快楽の喜びや独占欲が満たされる2種類の喜び に身体の奥が震える。 (ああ……このままずっと繋がっていたい……) 零司さんの腕に抱かれながら私はそんな風に考えていた。
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rit.〜りたるだんど〜の零司視点の物語 |
執着する愛のひとつのカタチ。 |