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rit. 〜りたるだんど3〜 STAGE.3


「そうか……零司が結婚か」
柊弥さんは腕を組んで小さく笑った。
長い前髪が風に揺らされる。
「知り合いの中では、一番しなさそうなタイプに見えていたんだけどな」
「まぁ、そうだろうな」
「自由だからな、おまえは」
くくっと柊弥さんが笑う。
「人の事を笑う暇があるなら、おまえもいい加減行動をおこせば? 会うなり、
諦めるなり」
「簡単に言うな」
「想いに執着しすぎだろ、相手に対する執着より強くてどうする」
「……零司が考えているほど簡単なものじゃないんだよ」
「簡単だろ? とは言ってねぇよ」
「判ってはいても、2度失うのは怖いんだよ」
そう言って小さく溜息をついて目を伏せる様子は痛々しくもあり、それでいて
ひどく美しい表情にも見えた。
零司さんの口ぶりだと彼には長く想っている人がいるのだろう。
「あぁ、ちゃんと紹介するの忘れる所だった、俺の嫁になる花澄だ」
しんみりとしそうな雰囲気だったのに零司さんは変わらない口調で私を柊弥さ
んに紹介する。
「あ、更科花澄です」
慌てて頭を下げると、柊弥さんは微笑んでくれた。
「澤木です。澤木柊弥、シュウでも柊弥でも好きなように呼んでくれていいよ。
零司とは路上をやっていた頃に知り合って、世話になった」
「ロジョウ?」
私が零司さんを見上げると、彼は笑った。
「昔はよくギター持って繁華街で歌ってたんだよ」
「ええー、そうなんですね」
「俺が歌ってる時に、よく来ていたのが柊弥で」
「……零司の影響を受けて、俺も路上ライブをするようになったんだ」
今をときめくJOYのボーカルが零司さんの影響を受けたって……。
「俺にギターを教えてくれたのも零司だったし」
「教えたってほどじゃねぇだろ、おまえは元々ピアノやってて音楽の基礎は出
来てた人間なんだから」
「柊弥さんって、色々出来る人なんですね」
「……色々ってほどじゃないよ」
謙遜なのかそうでないのか、柊弥さんは首を振った。
「JOYで、どれだけ売れても零司を越えられないと思っているし」
「おまえの中で勝手に俺が伝説になっちまってるだけだろ」
「そんな事はない」
「そうだっての、挫折した人間をつかまえてそれを越えられないとか言ってく
れるな」
「挫折ったって、あんなのプロデュースが悪かっただけだろ、違うやり方だっ
たら零司だって納得してCDも出してたし、世に出ていれば売れていた」
柊弥さんの言葉に、零司さんは肩をすくめて見せた。
「それが伝説だっての、結果も出せなかった人間には違いないんだから、もし
こうだったらって言っても仕方ないだろ」
「何言ってんだよ、零司に憧れて音楽始めたやつは俺だけじゃないって事を、
おまえだって知ってるだろ? その影響力をどう考えて――――」
「まぁまぁ、もう済んだ事だから」
淡々と言う零司さんに、柊弥さんは不満げな表情を見せた。
「……おまえは、俺を認めてくれているのか」
柊弥さんの言葉に、零司さんは首を傾けた。
「どういう意味?」
「零司があざといと嫌うラブソングで、成り上がったような俺を、おまえはミ
ュージシャンとして認めてくれているのか? と聞いている」
零司さんは笑った。
「もう結果は出ている、それ以上の何が必要?」
「俺は、おまえがどう思っているのかと聞いているんだよ」
「俺の意見なんてどうでもいいだろ、柊弥は世間が認め、必要とされたミュー
ジシャンなんだから」
「……それってやっぱり認めてないって意味か」
ふたりのやりとりを、私はどうしていいのか判らない気持ちで聞いている。
零司さんは恐らく、柊弥さんをからかっているのだと私は思えた。
相手が必死になればなるほど、欲しがっている答えをすんなりと出さないのが
彼の性質だから。
こう、なんて言うか……やっぱり零司さんは生粋のいじめっ子なんだなと、自
分には向けられていないそれではっきりと判ってしまう。
逆の立場であるなら、あの手この手で自分の欲しい答えを相手から引き出す人
なのに。
「……零司さんはズルイです」
「何がでしょうか? “花澄さん”」
零司さんはくくっと笑った。
「面白がって、楽しんでいますよね」
私の言葉に彼は驚くでもなく微笑んでいる。
「柊弥さんが欲しがっている言葉を理解していて、敢えてそれを言わず先延ば
しにして彼がいかに自分を大事に思っているのかを量るのは、ずるいと思いま
す」
「ああ、そんな風に思っているの?」
彼は笑った。
「そんな風にしか、思えないんですけど」
「花澄が意外に鋭くて驚いた」
「なに……どういう……意味?」
柊弥さんが投げかける疑問に、零司さんは微笑む。
「花澄は、俺が柊弥の事を認めているのにそれを隠しておまえを苛めて遊んで
楽しんでいると思ってるらしい」
「え?」
……楽しんでいるとは言っていないんですけど……。
零司さんは意地悪そうな視線を一度私に向けてから笑った。
「まぁ、その通りだから否定しないけどな」
「……零司」
「最初から、認めていない人間だったらギターも教えないし一緒に路上に出た
りもしねぇっての。そんなの、ちょっと考えれば判るだろ。それとも知ってて
俺に言わせたがってるの? 言わせたいならもっと素直に聞くか、言って下さ
いとお願いしろって」
完全にからかう口調になって、それを受けた柊弥さんは苦笑いをした。
「素直に……ねぇ」
「素直さ足りないのは、まぁ、お互い様だけどな」
零司さんはそんな風に彼に言って笑った。
綺麗に微笑むその表情の中に、私は少しだけ愁いを見た気がした。







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rit.〜りたるだんど〜の零司視点の物語

執着する愛のひとつのカタチ。



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