TOP BACK NEXT

rit. 〜りたるだんど3〜 STAGE.4

「柊弥には才能もあるしカリスマ性もある、俺が認めるだとかどうこう言う以
前にな」
「……」
「それは羨望以外のなにものでもない」
零司さんの言葉に、柊弥さんは驚いたように瞬きをしていた。
「何言って……それは零司の方が……」
「まぁまぁ、だから、おまえは俺が出来なかった事を成し遂げてくれればいい
んだし、俺が柊弥を認めないとか、ねぇんだからさ」
「……ん、そうか」
少しだけ柊弥さんは笑った。
安堵の表情であるのは私が見ても明確で、どれだけ彼が零司さんに認めて貰い
たがっていたのかが痛いほど判った。
「零司は、メアドとか変わってないんだよな?」
「ああ、変わってない」
「たまには返事してくれ」
「わかったよ」
零司さんは少しだけ肩をすくめて微笑んだ。
「じゃあ、またな柊弥」
「ああ」


零司さんは小さく私に『お待たせ』と言って、柊弥さんを背に歩き始めた。







「本当びっくりです、あのJOYのシュウと知り合いだったなんて」
「ああ、そう?」
「……あと、零司さんの路上ライブとか見たかったなぁとか、思いましたよ」
「もう、何年も前の話だ」
彼は薄く微笑んで私を見る。
「それに、おまえの為ならいくらでも歌ってやると言っているだろ?」
「あ、そうかそうですね……」
「聞きたいのなら、の話だけど」
「私は、零司さんのギターも歌声も好きですよ」
「そう」

何故か私は急に彼に抱きつきたくなって、街中であるにも関わらずそうした。
「花澄?」
「零司さんはやっぱり、プロになりたかったんですよね」
「……んー、まぁ目指してはいたからな」
「それなのに、私は、零司さんがそっちの道に行っていなくて良かったとか思
ってしまいました」
「……ああ、うん」
零司さんの大きな手が私の頭をそっと撫でてくる。
「出逢う事すら、なかったかもしれないって考えると怖いです」
「でも、ちゃんと出逢ったわけだし、大丈夫……何も心配する事はないし恐れ
る事も何もない」
「はい」
「また音楽を始めようとかも考えてねぇから、安心しな」
「……好きな事を、やってもらいたいとは思います」
「まぁ、やるとしても趣味の範囲だ」
「はい」
「ともかくだ。今は、他の事は考えられない」
「他?」
顔を上げると、零司さんは笑った。
「おまえの事で頭がいっぱいだから、他の事は考えられねぇって言ってるの」
「……あ、う、嬉しいです」
「そうだろうな」
にこっといつものように彼は笑った。

好きで好きで堪らない。
そんな気持ちが心を占める。

もう、私の心全部を零司さんに差し出して見て欲しい。
私はこんなにあなたが好きなんですって。
言葉では言い尽くせない、ありのままの心を見て欲しいと思えた。

「帰ろうか、花澄」
「え? あ、はい」
彼は少しだけ屈んで私の耳元で囁いた。
「おまえが欲しくなった」

私の感情を支配しているのは零司さんだと思う。
彼の行動ひとつひとつが私を揺さぶり、その感情の起伏を私自身ではどうにも
出来ない。
今も、不意に高められてしまった衝動を持て余していた。
「……意地悪です」
「花澄は火がつくと早いからな」
くくっと彼は笑う。
そしてゆっくりと身体を離しながらも、指先では私の首筋や耳朶をくすぐった。
とことん意地悪な彼は、ご丁寧に私の身体までもをしっかりと高めてくれる。
辛いと私が思ってしまうレベルまで。
「おまえは色が白いから、赤くなると本当、耳まで色がつくな」
「こういう場所で、苛めないで下さい」
「可愛い」
額に彼の唇が触れた。
小さなキス。
だけどそんなキスにでも私は激しく発情してしまって本当に困る。

「……これはまた、ラブホコースかな」
小さく呟くように零司さんは言って、意地悪そうに細めた瞳を私に向けて来て
いた――――。




 TOP BACK NEXT

-・-・-Copyright (c) 2011 yuu sakuradate All rights reserved.-・-・-

>>>>>>cm:



rit.〜りたるだんど〜の零司視点の物語

執着する愛のひとつのカタチ。



Designed by TENKIYA