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rit.〜りたるだんど〜 act.7

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柔らかな唇が、私の喉を撫でていく。
その感触や僅かに当たる彼の吐息に身体が震えた。

どんなに小さな刺激でも、それを与えてくるのが彼なのだと思ってしまうと、
今まで別の人にされてきた直接的な愛撫よりも良いと感じてしまう。

「花澄」
耳元で彼が囁いて、その唇を耳の淵に滑らせる。
漏れる声に彼が笑った。
「前に抱いたときよりも、反応が良いな……こっちも」
「あっ」
興奮で熱くなっている部分に零司さんが触れた。
緩やかにその長い指先がそこを弄る。
忘れていた快感を思い出させるようにじっくりと、そして執拗に。


異常なまでに彼に嵌ってしまっているけれど、あの夜抱かれたのは1回だけだ
った。

――1回だけだったのに、忘れられなくなってしまった。
終わった直後はこの事は忘れてしまおうと、確かに思った筈だった。

だけど、心以上に身体がそれを拒否するかのように彼を求めその結果がこれだ。

もともと零司さんには興味を持っていた。
だけど持っていたと言っても見目麗しい人だと思うだけで、その思う感覚は芸
能人に向けるそれとよく似ていた。

そういった自覚があるだけに、セックスをした後で彼を好きだと言ってしまう
のはそれこそただの言い訳にしかならないような気がした。

後付でなら、なんとでも言える。
そんな事で自分を正当化してみても何も生まれはしないんじゃないかと思えた。

身体ほど、心は判りやすくはなかった。

「面白いぐらい、敏感になってるな、おまえ」
耳のすぐ近くで彼の声がした。
そのちょっと低い声でさえ、私を溶かすには十分で。
「わ、かってるんです、私の中が、ぐちゃぐちゃになってて、もう他になにも
する必要がないぐらいになってるっていうのが」
「ああ、確かにその通りだな」
ずるりとその部分から指を引き抜いて、彼は私の体液たっぷりに濡れた長い指
をこちらに見せてくる。
「すみません」
「何が?」
「汚してしまって」
彼が何かする前に、私はその指を舐めた。
零司さんの指を濡らす自分の体液を舐めとるようにして。
「……指を舐めるぐらいだったら、他の所を舐めろ」
“他の所”が何処なのかは、すぐに察する事が出来た。
だけど、それがすぐに判っても、即座に行動に移せるほど私はその事には慣れ
てはいなくて、彼の腰のベルトを少し緩める事も、ファスナーを降ろす事も、
全てがたどたどしかった。
上手く立ち回れない歯がゆさを自分が感じるように、彼はそんな私の不出来さ
をもっと感じてしまっているのではないかと思えて、様子をうかがうように、
そっと顔を上げて零司さんを見た。
「どうした?」
「い、いえ、あの」
「したくなくなったとか言うなよ」
「そんな事は言いません」
剥き出しになっている彼のそれに目を落し、震える思いで口に含んだ。
舌や唇を使って自分が思うなりのその行為を彼にする。

正直この行為は得意ではなかったのだけれど、私が舌を動かす度に変化をして
いるその物体が零司さんのものであると考えただけで、身体がぞくっとしてし
まう。

これが身体の中に入ってきたら、どんな風に内部がなってしまうかとかそこに
生まれる快感だとかを知っているから余計に堪らなくなってしまうのだろうか。

そんな風にさえ今までは感じた事も考えた事もなかったというのに。

「やらしい顔して、しゃぶるんだな。おまえ」
その声に顔をふっと上げると、零司さんが少し身体を倒し気味にしてじっと私
を見ていた。
「や、み、見ないで下さいっ」
「そんなに美味そうにしゃぶる女は初めて見る」
「そ、そういう事言われたら、出来なくなります」
「へえ」
彼は身体を起こし、私を引き寄せた。
「入れさせてやるよ、ほら、乗れ」
跨がされて、ちょうど中心部に彼のそれがあった。
腰を沈めれば入れる事は容易だ。
入れたら狂わされてしまう。

その小さな不安と大きな期待で身体が震えた。

「早く入れろ、何をしてる」
「零司さんは……意地悪、です」
「今初めて知ったように言うな」
彼はそう言って笑った。

何も考えられない。
何も考えたくない。

大きくなっている彼のそれに手を添えて、私はゆっくりと身体を落した。
「んっ、ぅ」
固体が私の中を擦りながら奥まで入ってくる。
内部がそれを相当待ちわびていた所為なのか、前回入れられた時よりも快感が
大きいように感じた。
そしてその大きな快感をより感じようと内部が蠢いているのが自分でも判る。
「花澄の中は、本当、気持ち良いな」
ふっと笑いながら零司さんが言った。
「だったらもっと、感じて下さい」
自分だけが、この渦に巻き込まれるのは嫌だと思えた。
「それはおまえ次第だな」
内部の最も奥まで彼が届く。
彼のそれは驚くほど大きいというものではなかったけれど、今まで見てきたも
のよりは少し大きく、そして長さがあるような気がした。
……だから、私が最も良いと感じてしまう部分に容易に届いてしまう気がした。
「動かないのか」
「だ、って……動いたら……」
気持ち良くなり過ぎてしまう。
「もっと俺に感じて欲しいんじゃないのか?」
彼が笑う。
「ゆっくりで良い、動きな」
「は、はい」
ゆるゆると、出し入れするように身体を動かす。
そうしてみるとやっぱり、その快感の虜になってしまう。
ほんの少し、内壁が彼の固体と擦れるだけで気が狂いそうになるほどの快感が
そこから生まれた。
顔を向けると零司さんと目が合って、入っているそれが彼のものだと嫌でも理
解する事になり、そして強く意識してしまうと、そこがまるで火がついたよう
に熱くなって感覚はより鋭敏になる。
「だめ、です零司さん」
「何が」
「気持ち良過ぎるんです」
「そう、それは良かったな」
そう言って笑う表情がより意地悪く見え、意地悪く見えるのに美しくて私の心
を惑わす。
彼はその表情を変えないまま腕を伸ばし、私を引き寄せ抱き締めた。
「俺も、気持ち良いよ花澄。おまえの中が俺の形に合わせるように動いてて、
きつく締め付けてくる感じが堪らないね」
「んっ」
ぐぐっと彼のそれが奥まで入り込んでくる。
「花澄」
「だ、だめ、です」
身体が震える。
その強い快感に。
動けないと思うのに彼によって無理に腰を揺さぶられる。
泡のように快感が現れては消えていく中で、それでも零司さんはがつがつと動
いたりはしない。
緩やかに動かされているのにその快感の色が強くなっているような気がした。
「れ、零司さんっ、あぁ!」
「これだけ濡れてるのに、中はきついんだな。貪欲に俺のを欲しがって」
耳元で囁くように言って彼は笑った。
それからその彼の唇は、首筋を経由してから私の唇に重なる。
重なる唇と絡み合う舌の感触に溺れる。

どんなに自分だけがこの快楽の渦に巻き込まれるのが嫌だと思っていても、否
応無しに巻き込まれていく。
体位を変えられて彼が上になれば尚更翻弄されてしまう。

我慢なんて出来ない。

求めるべきものがすぐ傍にあるのに、知らない振りなんて出来はしない。
自分の弱さに辛酸を舐めるような思いだったけれど、それすらもうどうでもい
いと思えた。

求める言葉を吐き出し、彼を乞う。

「花澄」

甘く切なく響く音は声となり、私の耳に届いて来ていた。
切ない痛みに身体が悲鳴を上げる。

頂点まで達したいという気持ちと、まだ抜かれたくない気持ちが激しく混ざり
合う。
だけど、そんなものだって彼の気持ちひとつだ。
零司さんが出してしまえばそこで終わってしまう。
中途半端に終わるぐらいなら、最後までと思うのに、心の何処かでブレーキが
かかってしまう。
まだ、駄目だって。
このままが良いって思うから。
もう、キスされただけで達してしまいそうになっているのに。
「おまえ、ホント、面白いな」
絡んだ舌がほどけたすぐ後に彼がそう言う。
まっすぐに私を見下ろしている瞳と視線がぶつかった。
黒目が多い切れ長の瞳は、間近で見るとその睫毛の長さが際立って見える。
好みであるかと聞かれれば断然好みではあるし、それは入社した時から思って
いた事。
彼の外側は知っていても内側はまるで知らない。
その容姿に一目ぼれしたのだと、自分を偽っても良いんじゃないのかと思うの
に、心の中で何かが引っ掛かる。

――偽りたくない。

零司さんが私の手をぎゅっと握り締めたから、私はその手を同じ強さで握り返
す。

始まる予感がしていたから。

私の心に埋められた種が、ゆっくりと育っていく感じがなんとなくだけど判る
から、まるで前から好きだったようには言いたくない。
……多分、そんな感じなんだろう。

今までの、どんな物とも違う。
どんな想いとも似ていない。
だけど、確かな想いがあるような、ないような、そんな曖昧な感じが心の中に
はあった。

「零司、さん」
見上げると、彼は初めて苦い表情を浮かべた。
「本当、参るな」
「え?あっ、ん」
強い衝撃。
緩やかに引き抜く動作の後、強くそれを押し込んできた。
最奥に届くように。
「や、ぁ」
指の先まで甘い痺れが襲う。
逃そうと思っていた大きな快感がせりあがってきていた。
知りたいと思う、強い快楽。
片鱗でも見せられてしまえば、私はやっぱり追いたくなってしまう。
「ま、まだ……やだ」
「……何が、嫌だ?こんなに、締め付けてきてるのに」
「まだ、抱かれて、いたいんです、だから……っ」
「ふぅん」
私の意志に反するようにして彼はその動きを激しくさせた。
ただ闇雲に動いているんじゃないって事は私にも判る。
深い場所に、落そうとしているんだって、そういう事が……。
「そんな風にされたら、私」
「いっちゃう?いけば?」
近い場所まで来ているのが判ってしまっているから、もうそこからは逃れられ
ない。
言葉と裏腹に、自分の身体が勝手に動いてしまう。
それに合わせるように、或いは反発するかのように彼は巧みに動いてみせる。
もう、止まらない。

「……っ!!」

快感の切なさは痛みとほぼ同じようで、その大きすぎる衝撃に一瞬気を失いそ
うになった。

「すげ、このまま……出したくなる」
彼は息を吐き、一度深くそのものを押し込んでから引き抜いた。
引き出したそれが、ふるっと振るえ、まだ高い所を向いている。

ああ、そういえば彼は何もつけてなかったな。なんて事を呑気に思ってしまっ
た。
入れる時はその事に対してためらいもあったというのに。

恋人とする時だって、何もつけずにするなんて事はなかった。
そのままだったから余計に気持ち良いと思ってしまったのだろうか?
直接触れる粘膜同士の摩擦に。

――彼はいつでも、つけないでしてしまう人なのかな。

前回のセックスの時は初めからつけてはいたけれど。

なんていう事をぼんやりとした頭で考えているうちに、一枚膜を取り付けた彼
のそれがまた体内に戻ってきた。

「っン」
「……もう、好き勝手やらせて貰うぜ?」
耳元でそんな事を囁いた彼が動き始めた。
「ぅ、あ、零司、さ……」
好き勝手というから、がつがつ動くのかと思えばそうする事は彼は無く、緩や
かにそれを出したり入れたりする動作を繰り返している。
私の反応を見て楽しんでいる、零司さんの動きはそう考えて間違いはないと思
えた。
達したばかりなのに私の身体は貪欲に、次の波を求めてしまっている。
身体が動き、その上彼を望んで欲する言葉だけが口からついて出る。

「零司さん、気持ち良いの、もっと、欲しい」
「呆れるほどやらしいな、おまえは」

そう言う彼の声がひどく優しいと感じてしまうのは錯覚なのだろうか、真実な
のだろうか。
正常ではない意識下での私には、どんな事も判断は不可能だった。
考えられるのはひとつだけだったから。
「そんなに気持ち良いのか」
「ん、ぅ、はい、こんなの、気持ち良過ぎて辛いです」
「……面白い事言うよな……おまえって」
「だ、から、もっとして下さい」
「ああ」
「もっと、いっぱい私を抱いて下さい」
「それは……当然、これからもっていう意味だろうな?」
「っんぅ、こ、これからも、です」
「意味、判ってるのかねぇ」
彼は腰の動きは止めないままに私を強く抱き締めた。
零司さんの香り。
そうはきつくない男性ものの香水の香りと、ほんのりと汗の香り。
それから、はっきりと匂いは認識できないけれど、何かの香り。
それらにも堪らなく私は発情した。

彼の背中に腕を回し、そのシャツを強く握り締める。

「いけるなら、いけよ。俺だってもうそんなに長くは、もたせられないぜ」
「れいじ、さん……キスして下さい」
「“近くなる”と要求、多くなるよな」
くすっと彼は笑って、私が求めるキスを落した。

それからは、激しい律動に私は翻弄され、2度目の絶頂を覚えた。
達した後の内部に絶え間ない刺激が加えられそしてそれに狂わされ、小さな絶
頂が何度も私を襲い、涙が零れる。

「花澄っ」

押しこまれているあの部分から、沢山の体液が溢れているんだろうなって事が
少しだけ理解が出来た。
びくびくと、大きいそれが痙攣するように震えてて私はその刺激にさえ乱され
た。



「……ン、花澄……」
彼の唇がゆっくりと私の唇に重なる。
ぴくりと身体が震えると零司さんがそれを笑った。
「……凄い、気持ちが良いなおまえの中は……抜くのが惜しいって思うぐらい
だよ」
「抜いちゃ、やです」
くくっと彼は笑った。
「それじゃあ、なんの為に着けたか判らなくなるだろ」
言った瞬間、ずるりと体内から大きな固体が引き抜かれていった。
「ん、ぅ」
「どろどろだな」
零司さんは私のその部分を見詰めながら笑った。
「折角のスーツもしわだらけだし、着替えたら?」
すっかり着衣の乱れてしまった私を見下ろして彼はそんな事を言った。
「え?着替えるって……その、私着替えなんて、持ってないですよ」
「あるから」
彼は楽しそうに笑って手早く後処理を済ませて立ち上がった。
そしてクローゼットから、どう見ても女物のルームウェアを出してくる。
ピンクの生地に小さな黒の水玉模様の上下で胸元にはリボン、裾にはレースが
ついている。
下は同柄のショートパンツ。
「取り敢えずそれに着替えろ」
「……」
あれば確かに便利なんだけど、ぽんとこういうものが出てくると少しだけ複雑
な気分になってしまう。
「なんだよ」
「……いえ、女物が常備されているんだなぁと思いました」
私の言葉に、ふっと彼は笑う。
「だったら何なんだよ」
「いえ……」
零司さんは面白いものを見るような目をしてから、ぎゅーっと私の頬を抓って
きた。
「い、痛いですっ」
「思ってる事はちゃんと言え」
「……女物が常備されちゃってるぐらい、零司さんの家には女の人が頻繁にく
るんだなって思っただけです」
「女が泊まりに来た時用の物であるなら、前回おまえはそれを着たのかよって
話だが」
「確かに、前回は貸して頂いてないですけど」
「無かったんだから貸しようがない」
「え?」
「いいから着替えろ。あと、飯は適当にデリバリーを頼むからそれで良いな?」
「え、と、あ、はい」
「ん」

そっと見上げると抓られた頬に、優しいキスが落ちて来た。

そのキスが温かくて、私は何故か泣きそうな気持ちになってしまった。

彼の唇が触れた頬をそっと撫でる。
自分の頬の筈なのに愛しくて堪らなかった。


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