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rit.〜りたるだんど〜 act.9

「花澄」
名前を呼ばれただけで体温が上がる。
彼の身体をきつく抱き締めた。
「零司さん」
「どうされたい?」
「だ、抱かれ……たい、です」
「さっきしたばかりだよね」
「は……い」
「それでもうやりたくなってるのか?」
「はい」
「やらしい女だな」
くくっと彼は笑った。
それは本当に彼の言うとおりで、もう否定の言葉すら出てこなかった。
「おとなしそうな顔して、どれだけ男狂いなんだ?おまえは」
「狂っているのは確かですが、でも男に狂っているんじゃないです……私を狂
わせているのは零司さんだからで、こんな風に、したいと思ってしまうのは、
貴方だからで」
急に視界が変わった。
天井が正面に見える。

押し倒されて、私の身体の上には零司さんが乗っていた。
この重みにでさえ、揺るがされる。

「……零司さん」
「求めろ」
「……ほ、しいんです」
「コレだけあれば満足するのか?」
「あっ」
身体の中心に、彼のあの部分があてがわれる。
そこはもう硬さも大きさも十分なくらいになっているように思われた。
意識してしまえば尚更、その誘惑からは逃れられなくなる。
布越しではなく、ダイレクトにその部分を感じたくなる。
「入れて、欲しいです」
彼は、ふっと妖艶に笑った。
「俺が入れるようになっているのか」
「なって……る、と思います」
「見せてみろ」

普段なら、今までだったら、絶対従えない事だった。
だけど、どうしてこんなにも、膝をついて屈してしまう程に誘惑に勝てないん
だろう。
本当に今の私は、彼のどんな言葉にでも従ってしまえるんじゃないかと思えた。

彼の身体の下で、ショートパンツを下着ごと脱いで見せる。
零司さんの視線が下にくるだけで、私は馬鹿みたいに感じてしまう。

「おまえはいつでも、そんな風に男の前で足を開いて見せるのか?」
首を振ると彼は笑った。
「上も脱げ」
従うようにして上も脱いで、私は全裸になった。
「本当にエロいな、男を誘うやらしい身体つきだ」
「零司……さん、お願いです、から」
「焦るな、今入れてやる」

黒のVネックのシャツを脱ぎ捨て、彼も全裸になる。
均整のとれた美しい身体つき。
細身だけれど、がりがりに痩せているというのではなく、程よく筋肉がついて
いて、それこそ絵や彫刻でモデルになっていてもよさそうな、彼はそんな肉体
の持ち主だった。
この身体に支配されるんだと考えるだけで、一層内部が熱く潤う感じがした。
「何もしてないのに、本当に濡れているんだな」
くくっと彼は笑ってから頭を下げ、私の胸にその形の良い唇を滑らせた。
「んっ」
唇と、柔らかい舌が胸の上を動く。
吸い上げられれば得も知れない快感がそこから広がる。
彼の舌や唇での愛撫は私に沢山の快感を教えてくる。

私は彼のその姿形や匂いだけでも高ぶる事が出来るというのに、零司さんはま
だ高めてこようとしていた。

そんなに沢山の男性に抱かれてきたわけではない私だったけれど、彼の愛撫は
無駄がなく身体の感度を高めるというよりは“深めている”という感じがした。
快感の質みたいなものが今までとは全然違うと思えた。
それは抱かれれば、抱かれるほどそうなっていっているような気がした。
最初から彼は“上手”ではあったと思うけれど、ここまで私を溶かすような仕
方ではなかったと思う。
それとも、私の感じ方が変わったの?
心がどこかに置き去りになっているという感じは最初の頃とは何も変わってい
ないのに。

それでも、身体を愛でて貰っているという感覚は今はあった。

舌が優しく私の局部を滑っている。
苦しいぐらいの快感に襲われて気がおかしくなりそうだった。

――――早く、塊を私の中に埋めて。そして塞いで欲しい。

私が散々彼を求める言葉を吐いて、焦れてどうしようもなくなったというぐら
いのタイミングで、零司さんはゆっくりと私の内部に身を沈めて来た。
欲しいものがようやく入ってきた満足感と安堵みたいなもので、何故か涙が溢
れた。

「花澄……おまえは可愛いな」
入ってきても、彼はゆっくりゆっくり出し入れする。
それは私が腰を動かさずにはいられないほどの速度だった。
「そんなにがっつくな」
動く私の腰は彼の両手で押さえられ、動きを制されてしまう。
「零司さん、もっと、して下さい、もっと激しくして欲しいです」
「ダメ、おまえの身体に俺を教えているんだから」
ふっと彼は笑った。
意地悪くも見えるし、ひどく優しいような表情にも見えた。
「俺の舌も、唇も、コレも、全部覚えろ」
緩やかに動いているその部分を、しっかりと私が咥え込んでより多くの快感を
得ようとしているから、強く彼のその部分を認識する事が出来ていた。
大げさに言えば、彼のカタチが判るぐらいに。
「他の男のモノなんて、思い出せなくしてやる」
ゆっくりとしか動いていないのに、身体の熱さは十分で深まった感度は強い快
感の波を起こそうとしていた。
中心が熱くて、気が狂いそう。
彼の名前を呼んで涙が零れるたびに、零司さんは満足そうに微笑んでキスをし
てくる。
「もう駄目、もう、ダメです」
「……ああ、良いよ」
色んな事を叫んで、彼を強く抱き締める。
自分の奥に導くように引き寄せているのは零司さんの引き締まった細い腰。
最深部に当たる感覚だけで、私は高まってしまった。

緩やかではない快感。
摩擦で誤魔化されていないから、より強くそれを感じた。
今まで感じた事のない深い快感に、到達した後の身体ががくがくと震えた。

「花澄、そんなに気持ちが良い?」
優しい甘い声が耳元で聞こえる。
そんな声で囁かれたら身体だけでなく脳内をも溶かされてしまう。
「ね?気持ち良いの?」
笑う声を含んだ、でも優しい声色が響く。
彼が身じろぐだけで私の身体が快感に震え、溺れた。

こんな快感を教えられてしまったら、私は――――。

「可愛い顔して……もっと、俺だけ見詰めろよ」
見詰める先には零司さんの切れ長の瞳があり、その綺麗に輝く瞳は私を見詰め
ていた。
「おまえは、俺だけ見てろ」
「……零司さん」
「他を見るなんて、許さない」
「み……ない、です……から、私をもっと可愛がって下さい」
彼は、ふっと笑う。
「可愛がれ?やらしい言い方だな」
「や、あの……じゃあ……愛して、下さい」
私の言葉に彼の身体がぴくりと反応した。
見詰めてくる瞳の色が変わったような気がして、私は彼が怒ったのだと思った。
「あ、ち、ちが、そういう、あの、意味じゃな……」
「じゃあ、どういう意味だ?花澄、この俺に愛せと言ったな?おまえが」
「あ、そうじゃな、っつ、あああっ」
緩やかな動きしかしていなかったのに、一変して彼は激しく私を責め立てる動
きをしてきた。
その一瞬の動作でも、私は軽く上り詰め、その後の容赦ない動きに何度も高め
られた。

「や、そんなに、したら、ああっ」
「何も聞こえねぇよ」
「駄目、壊れちゃう……壊れちゃう、やああっ」
「嫌じゃないだろ、感じてるくせに、ほら、もっと感じろよ、俺のを咥えて悦
べよ」

ごめんなさいって何度も言ったのに、零司さんは一向に許してはくれず、延々
と私は抱かれ続けた。

白濁色の液体と、私の体液でフローリングの床が濡れる。
一度彼が出してしまえばこの責め苦は終わるのだろうと思ったけれどそれは甘
かった。

重くなった身体を引きずられて、ベッドに倒され、そこからまた続いた。

うつ伏せにされ後ろから、まるで獣のように犯される。
辛いのは、絶え間ない快感の波。
痛みのほうが余程ましなのではないかと思えるそれだった。
半狂乱になりながらも、私は泣いて彼に謝り続けた。

「ごめんなさい、お願いだから、もう……怒らないで」

私がそう言った所で、初めて彼が動きを止めた。

「怒るって、誰がだよ」
「れい、じさん」
「俺?怒っちゃいねぇよ」
「だ……って」
「怒ってない」
「……」
「怒ってないっての」
ふっと彼は表情を緩めていつものように微笑んだ。
「怒ってないよ、花澄」
「……本当、ですか?」
「怒る理由が何もないんだけど」
「わ……たし、が、愛してって、言ったから」
「愛されたいんじゃないのか?」
「そんなの……」
私が首を振ると、彼はあからさまに不機嫌そうな表情をした。
さっきの“怒ったような”表情とはまるで違う。
「何、俺に愛されたくないのか、おまえは」
「だ、だって」
「だってじゃねぇよ、この俺に愛されたくないのかって聞いている」
「あ、あの……その」
「俺が愛してやるって言ってるのに、要らないって言う権利がおまえにあると
でも思っているのか?」
「え??」
乱暴に身体の向きを変えられて、仰向けにされる。
「望んだのはおまえだぞ」
「そ、そうなんですか」
「“そうなんですか?”じゃねぇよ。おまえが言ったんだろ?愛して下さいと
おまえが望んだんだろうが、だから俺は仕方無しにそれに応えてやるって言っ
てるんだ」
「仕方無しに……ですか」
「ああ、そうだ“仕方無しに”だ」
「え、えっと」
「何だよ」
「応えてくれるって、その、零司さんが私を、愛してくれるって事ですか?」
「何度も聞いてくるな」
「愛してくれるんですか?」
「しつこいな、もう1度でも聞いてみろ、怒るぞ」
「で、でも」
急激な胸の痛みに襲われる。
痛くて苦しくて、涙がどっと溢れた。
零司さんは少しだけ息を吐き出した。
「……おまえが先に言え」
「え?え??」
「先に言え」
見上げると、彼は少し怒ったような表情をしていた。
「言えと言ってる」
私はしゃくりあげながら言った。
「あ、愛されたい……です」
「ああ、愛してやるよ」
私の頬に手を置いて彼はそんな風に返事をしてきた。

その言葉の意味を私が聞く事を許さないようにして開きかけた唇を塞ぎ、身体
を繋がれた。

愛を考えたら尚の事、身体は鋭敏になり私はあっという間に快楽の渦に巻き込
まれた。


溶けたみたいに熱いのは、あの部分だけでなく、胸の中もだった――――。



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